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庶民の日常から17文字の宇宙 川柳作家 大西泰世さん

関西のミカタ

(更新)
おおにし・やすよ 1949年兵庫県姫路市生まれ。20代半ばで川柳と出合い、83年に初の句集「椿事」を発表。スナックを経営しながら句作に励む一方、県内の大学などで講師を歴任。96年からNHKのラジオ番組の川柳コーナーで選者を務める。

■「ぼやき川柳」はNHK大阪放送局発のラジオ番組で四半世紀続く人気コーナー。選者を務める川柳作家の大西泰世さん(72)は、愛情豊かに投稿される句と向き合う。一方、自身の句は「ぼやき」の対極にあるという。〈身を反らすたびにあやめの咲きにけり〉〈月光に泡立つ死者の未来なり〉――などの句が映すのは生々しい人間の感性だ。

川柳は、俳句と同じ「五・七・五」の短詩。俳句では原則必要な季語がなく、とっつきやすい。世の中では駄じゃれ、言葉遊びというイメージで語られることも多いが、本当は違う。日常の暮らしで感じた思いを17文字で表現する川柳は、背景にある空間を読むことにこそ面白さがある。

20代半ばで川柳と出合い、その空間の面白さ、怖さに魅了された。身近な出来事を自由に表現でき、他のジャンルに負けない文芸性もある。17文字で全宇宙をつかめる。そう考えて句を作ってきた。

だから最初に「ぼやき川柳」の選者を引き受けた時は「なんで私が?」と思った。投稿される作品もコーナーの名前も、私が思う川柳とは別のもの。だが、続けるうちに自分の気持ちが変わってきた。

高齢の一人暮らしのリスナーからは「誰ともしゃべらず、笑うこともない。でも1週間に1回、ぼやき川柳を聴いて笑う」などの言葉が添えられ、作品にも生活のさまが映る。文芸性よりもっと確かな手応えがそこにはあった。

■川柳には約260年の歴史があり、時代時代の庶民の生活、日常の喜怒哀楽が連綿と17文字に刻まれてきた。

世相、時代の変化は確かにある。川柳にメールなんて言葉が出てきたときは「わっ、こんな時代がきたんや」と思ったが、江戸の昔から変わらず詠まれてきたものもある。夫は妻に頭が上がらず、嫁と姑(しゅうとめ)の問題もあった。川柳で大事なのは、自分より弱い立場の人を傷つけないこと。これさえ守れば何を書いてもいい。庶民は川柳で上に言いたいことも表現した。大阪で好まれたのはそれが気質に合った面もある。

現在、川柳を楽しむ人の数は西高東低。戦前戦後の大阪で活躍した大家、岸本水府らの功績もある。作家、田辺聖子さんによる評伝「道頓堀の雨に別れて以来なり」の書名は、水府の代表的な句の一つだ。水府らと川柳雑誌「番傘」を創刊した西田当百は、燗(かん)酒を出す店の主人と客のやり取りを、〈上(じょう)かん屋ヘイヘイヘイとさからはず〉と詠んだ。庶民の街・大阪の情景が浮かぶ。

いまは大阪弁川柳というコンテストもある。大阪弁、関西弁には言葉の幅、奥行きがあり、たとえば「あほ」という一言にも、愛のあるキャッチボールが成立する幅や深さがある。普通は上の人にぽんぽんと言えないことも関西弁ならやわらかく聞こえる。

カルチャーセンターの教室で生徒の作品を見る

■かつてはスナックのママ、大学講師を兼ねた時期も。多様な年代の人々と向き合い、今も関西一円のカルチャーセンターで川柳を教える。

川柳という文芸は年齢を重ねてからが面白い。人生や人情の機微が分かってこそ、17文字の背景の空間は深くなる。生徒さんには「年齢を重ねているのは何よりの才能。自身の経験を題に当てはめて考えて」と伝えている。鉛筆1本、紙1枚あれば、人生の最期まで楽しめるのも川柳だ。

逆に学生には「これからの人生、きっと楽しいでしょう。でも挫折したときには川柳という文芸を思い出して」と言ってきた。自分で考えたことを短い詩で表すことで気持ちを整理してほしいからだ。

年齢を重ねた方たちの句には、悲壮なことを軽くさらっと表現し、すごいと思えるものがある。ぼやき川柳でもそうだが、選者といっても皆さんの方がうまいと感じることは多い。そんなときにも川柳に出合えてよかったと感じる。(聞き手は影井幹夫)

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