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大阪・貝塚のつげ櫛、親から子へ 美髪育む繊細な磨き 

匠と巧

ガンギリという自作の工具で櫛の歯先を削る=目良友樹撮影

大阪府貝塚市は櫛(くし)の最高級品「つげ櫛」の代表的な産地。全国の生産に占めるシェアは7割に達する。その歴史は古く、6世紀後半に浜に漂着した渡来人が製法を授けたと伝わる。江戸中期には「和泉櫛」の名で全国に流通した。

静電気が起きにくく、ツバキ油をつけて使うと、艶やかで美しい髪になる。力士や舞妓(まいこ)らに親しまれ、近年は若い女性の愛用者も。大事に使えば親から子、孫へと受け継ぐことも可能だという。

「西出櫛工業」を営む西出長仕(たけし)さん(70)はこの道50年の職人。先人が積み上げた技と品質を多くの人に伝えようと、通販全盛の世にあっても対面販売にこだわり、手入れ方法まで丁寧に客に教える。

工房を訪ねると、ほのかな木の香りに迎えられた。ツゲは密度の高い常緑樹で、弾力性があり折れにくい。高級品には鹿児島県の「薩摩つげ」などの国産材が使われている。

製造には実に手間がかかる。まず木材の反りやゆがみをなくすため、乾燥、加熱、加圧を繰り返す作業に最短でも2年。なかには10年近くかかることも。この過程で木が熟成し、丈夫で美しい櫛の材料ができる。

櫛に加工する前の木材の板は、長辺の片側が厚く、反対側にかけて薄い形状。薄い方にのこぎりを入れ、櫛の歯の形を作っていく。

次が「使い心地に最も差が出る」(西出さん)という「歯擦(す)り」の工程だ。ガンギリという自作のヤスリの工具で櫛の歯を磨き、先端にかけて逆三角形にとがらせていく。磨きすぎると使う際に痛みを感じ、丸みを残しすぎると先端が頭皮まで届かない。

終盤では櫛を台上で斜めに固定し、トクサという植物などで一本一本を丁寧に、繊細に磨き上げる。「シャッシャッ」と歯を擦る音が響き、ツゲの甘いにおいがふんわりと立ちこめる。

西出さんは、櫛の柄の装飾にもこだわる。糸のこぎりで一部をくりぬく「透かし彫り」の技法で、桜や麻の葉などの模様をあしらう。道具も自作し、べっ甲細工の技法などを参考に数十年間、鍛錬を重ねてきた。

柄の装飾には「1日4時間の作業で1週間はかかる」。近ごろ目の疲れは感じるものの、透かし彫りをできる櫛職人は全国でも希少。「伝統を守っていきたい」と自らを励ます。

歴史のある工芸品も新型コロナウイルスの影響を受ける。月に2回ほど行っていた百貨店での実演販売は自粛せざるを得ない。代わりに今まで敬遠していたインターネット販売を始めたが、「やっぱりお客さんと触れ合える対面販売が恋しいよね」と寂しげだ。

最後に西出さんから大事な一言。「購入後はツバキ油をたっぷりと塗り、3日置いてから使って下さい。ぬれた髪はとかさないで」。実際に使うと櫛がすっと入り、毛先の絡まりがとれて手触りがなめらかに。価格は4千~4万円前後、20万円の特注品もあるというが、親子3代の思い出がそこに宿るなら価値ある逸品だと感じた。

(奥山美希)

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