印IPO市場に新風 21年はゾマトなどユニコーン続々

インド企業の新規株式公開(IPO)が新型コロナウイルス禍でも好調だ。2020年のIPO株はすべて値を上げ、今年は有力ネット企業の公開が相次ぐ見通し。重厚長大産業やファミリー財閥、国有企業が主役だったインド株式市場が、テック主導の21世紀型に変貌する可能性がある。
ムンバイ証券取引所(BSE、中小型株部門を除く)へ20年に新規上場した14社のうち、初値が公募価格を下回ったのは4社。同年末の終値では全社が公募価格を上回った。年末までに公募価格の2倍超に値上がりした銘柄が4つもあり、新規上場株への市場の評価は高い。
20年のIPO銘柄は創業者やその家族、あるいは海外の大企業が大半の株を握る従来型のインド企業が多く占めた。だが21年のIPO見込み企業に目をやると、風景は一変する。
ベンチャーキャピタル(VC)などの外部資金を調達して成長してきた、米シリコンバレー型のネット新興企業が目立つのだ。しかも企業価値の推定評価額が10億ドル(約1030億円)を超えるユニコーンが目白押しだ。
現在21年中の上場が確実視されているユニコーンは、ネット通販国内最大手のFlipkart(フリップカート)、料理宅配大手のZomato(ゾマト)、ネット通販向けの物流・配達受託のDelhivery(デリーバリー)、保険ネット販売最大手のPolicybazaar(ポリシーバザール)の4社。さらに、オンライン食品スーパー2強の一つ、Grofers(グローファーズ)も夏までに最後の上場前資金調達を実施し、ユニコーンになった後に上場する計画とされる。

注目されるのは上場先だ。インド政府は20年秋、国内スタートアップが自由に上場先を選べるよう規制を緩和し、海外市場への単独上場を可能にした。
上記のユニコーン5社のうち、フリップカート以外はインド国内とされる。実現すれば、時価総額で数十億ドル規模の本格的なネット銘柄が同国株式市場に一挙に登場することになる。米国との二重上場の可能性もある。いずれにせよこうした企業の大株主であるソフトバンクグループや米セコイア・キャピタルなどの海外投資家は、ほぼ初めて上場を通じたインド新興株投資のリターンを得る。
一方、推定評価額が約250億ドルと既に巨大なフリップカートは米国市場への単独上場が有力視されている。現在、発行済み株式の8割超を米ウォルマートが握り、中国の騰訊控股(テンセント)、米ヘッジファンド大手タイガー・グローバル・マネジメント、米マイクロソフト、米VC大手アクセルが少数株主。ウォルマートは上場後も過半持ち分を維持する方針だ。

インドには外資ネット通販を敵視し、国内の中小小売業者の保護を主張する政治勢力が強く、規制が頻繁に変わる。親会社が米企業で上場先も米国になった場合、フリップカートはインド創業とはいえ「完全な外資」に扱われかねない。インドの一般投資家を投資機会の蚊帳の外に置けば、人気が落ちるリスクもある。
このため、インフォシスなどIT(情報技術)サービス大手が選択してきたように、米印の二重上場なども検討の余地がありそうだ。結論次第では21年末のインド株式市場の風景はかなり違ったものになっているだろう。
ほかにもモバイル決済のPaytm(ペイティーエム)やホテルチェーンのOYO(オヨ)、オンライン教育のByju's(バイジューズ)、配車のOla(オラ)など上場予備軍のテック系ユニコーン(いずれもサービス名)がインドにはひしめく。今後数年でインド株式市場の主役がテック株になっている可能性は十分にある。
(編集委員 小柳建彦)
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