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東南ア、コロナ対策で政府債務膨張 タイは1.7兆円追加

【バンコク=村松洋兵】東南アジア各国で新型コロナウイルス対策の財政出動に伴う政府債務が膨らんでいる。変異ウイルスの感染拡大で対策費が増加しており、タイ政府は5000億バーツ(約1兆7500億円)の追加借入枠を承認した。財政悪化が通貨安やインフレを招き、景気回復が遅れる懸念がある。

タイ政府は5月下旬、財務省に5000億バーツの追加借り入れを認める緊急勅令を出した。このうち4700億バーツを国民の生活支援や経済対策に振り向け、残りをワクチンや医療設備の調達に充てる。4月以降の感染拡大を受けて経済活動制限を強化しており、景気対策の実施を決めたが、財源が確保できていなかった。

コロナ対策では2020年に1兆バーツの借り入れを実施済みで、政府債務残高の国内総生産(GDP)比は20年末に51.8%と、19年末比で約11ポイント上昇した。追加借り入れにより58.6%に高まる見通しで、法律で上限と定める60%に迫る。金融機関や格付け会社が新興国の適正水準とみなす限度でもある。

タイ政府は当初、追加借入枠を7000億バーツとする方針だった。財政悪化に配慮して減額したとみられる。スパタナポン副首相は「感染を抑え込めれば全額を借りる必要はなくなる」と述べ、財政への影響をなるべく抑える意向を示した。

財政悪化懸念を受けて通貨バーツは軟調だ。足元では1ドル=31バーツ台で推移し、年初に比べて約4%下落した。バーツ安は自動車などの輸出には追い風となるが、輸入インフレを招き景気回復の足かせになりかねない。4月の消費者物価指数は前年同月比3.41%上昇し、過去8年4カ月で最大の上げ幅となった。

国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)は「過度な債務を伴うコロナ対策は財政の持続性を危うくし、(景気の停滞とインフレが同時に進む)スタグフレーションのリスクを高める」と警鐘を鳴らす。

隣国のマレーシアはコロナ対策費の増加を受けて財政規律を緩めた。20年9月に国会で政府債務残高のGDP比の上限を従来の55%から60%に引き上げる法律が成立した。経済対策費が増え55%を超えるのが確実になったためだ。実際に20年末には58%と、前年末より約7ポイント上昇した。

マレーシアは感染者の急増を受けて1日から全土でロックダウン(都市封鎖)を実施した。政府は経済への悪影響を軽減する目的で、総額400億リンギ(約1兆600億円)の追加経済対策を決めた。このうち直接の財政投入を伴う「真水」は50億リンギで、低所得層への現金給付などが柱となる。

一方で、ワクチン調達には石油関連の基金も活用する方針を決めた。政府系ファンド「1MDB」を巡る汚職に関わる債務も負担になっており、ザフルル・アジズ財務相は財政の健全化維持のために必要だと説明する。

政府債務残高のGDP比はフィリピンでも3月末に60.4%と16年ぶりの高水準になった。ベトナムも20年末に50%と高止まりする。政府債務は南米諸国などでも膨らんでいるが、東南アジアは日本との関わりが大きい。世界銀行によると2国間政府債務で日本が占める比率はフィリピンで86%、ベトナムで68%に達する。経済危機が起これば域内に進出する日系企業への打撃も大きくなる。

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