クレディスイス「警告顧みず利益専念」 アルケゴス報告書

【ロンドン=篠崎健太】スイス金融大手クレディ・スイス・グループは29日、米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントとの取引で巨額損失が生じた問題をめぐる報告書を公表した。内部からの警告が顧みられず、投資銀行部門が「短期的な利益最大化に専念」して管理に根本から失敗したと断じた。経営陣はリスク管理体制の抜本的な見直しを表明した。
報告書は法律事務所や外部の専門家が、関係者約80人への聞き取りや1000万件超の内部文書の分析などに基づく調査結果をまとめた。アルケゴスとの取引関係や破綻までの経緯を詳述している。高リスク運用の危うさが指摘されながら与信が膨らんだ実態が浮き彫りになった。
アルケゴスには売買執行や融資などの取引サービスを提供していた。同社は3月、保有株の急落に伴う追加保証金の差し入れに応えられず債務不履行に陥った。クレディ・スイスは4~6月期決算に5億9400万スイスフラン(約720億円)の関連損失を計上した。1~3月期分と合わせて50億スイスフランと、損失は取引先金融機関で最大だ。
クレディ・スイスの取引残高は3月初めの時点で総額210億ドル(約2兆3100億円)に達していた。運用破綻の引き金は3月23日以降の米バイアコムCBS株の急落だ。アルケゴスは同社株を51億ドル分も保有していたが大幅に目減りし、他の運用株も値下がりした。同25日に28億ドルの追加担保を求めたが手遅れだった。
報告書からは目先の利益優先でアルケゴスとの取引関係を深めていった実態が浮かび上がる。

創業者のビル・ホワン氏は12年に中国株のインサイダー取引を摘発され、香港株取引から締め出されて運用対象を米国に移した。クレディ・スイスと同氏の関係は03年まで遡るが、事件について特段の調査をした形跡はなかった。定例の信用調査も「通り一遍」で、投資銀行部門は運用成績の好調さなどを強調して取引を維持した。
19年にはアルケゴスが求めてきた担保比率の引き下げをのみ、同社への与信はさらに積み上がった。危うい運用実態や与信集中にリスク担当者から懸念の声が度々出ていた。だが20年9月の投資銀行部門の監督委員会は緊急対応の必要性を議論せず、同委員会は破綻直前の21年3月まで問題を協議しなかった。
報告書は投資銀行部門が目先の利益に走った結果、「アルケゴスを制御できず貪欲なリスクテイクを許した」と批判した。クレディ・スイスは「リスク管理全般の転換点にする」と応じ、事件を教訓に抜本的な体制見直しを図ると約束した。22年2月までに最高リスク責任者(CRO)に米ゴールドマン・サックスから同分野のベテランを招く。投資銀行部門が暴走しない体制づくりを急ぐ。
4~6月期決算は純利益が前年同期比78%減の2億5300万スイスフランだった。アルケゴス関連損失に加え、投資銀部門の収入が大きく落ち込んだのが響いた。
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