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ワクチン義務化、米欧が議論 デルタ型拡大で危機感

米国では反ワクチン運動が起きている(24日、ニューヨークのセントラルパーク)=ロイター

【シリコンバレー=奥平和行、ベルリン=石川潤】新型コロナウイルスのインド型(デルタ型)が拡大する米欧で、ワクチン接種の義務化の議論が高まってきた。ワクチンの接種率は春先から急速に上昇しているが、集団免疫の獲得に必要とされる人口の70%にはまだ距離がある。景気の先行きが再び不透明になるなか、各国政府が異例の手段を探り始めた。

「デルタ型による感染が広がり、各地で働く社員の多くが出社再開を懸念している」。グーグルのスンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)が28日、社員に電子メールを送り、出社再開の時期を10月18日に延期する方針と、出社する社員にワクチンの接種を求めることを伝えた。多くの社員が既にワクチン接種を受けていると指摘し、米国では数週間以内、ほかの地域でも数カ月以内に出社する社員に接種を求めると説明した。

フェイスブックも同日、米国で働く社員を対象に出社する際にはワクチン接種を義務付ける方針を明らかにした。海外についても対応を今後検討するとしている。

デルタ型の流行を受け、政府は対応を迫られている。米疾病対策センター(CDC)は27日、感染が広がる地域ではワクチン接種後も屋内でのマスクの着用を勧告した。感染状況によって地域を4段階で評価し、上位2段階の地域で推奨。これまで接種者はマスク不要としてきたが方針を転換した。

ニューヨーク州のクオモ知事は28日、州職員に対し、ワクチンを接種するか、週に1度コロナ検査を受けることを義務付けると発表した。カリフォルニア州やニューヨーク市も同様の政策を打ち出しており、バイデン大統領も27日に連邦政府職員のワクチン義務化を検討していると表明した。

ワクチンの義務化は米連邦政府管轄の雇用機会均等委員会(EEOC)が5月末に示した新指針を受けたものだが、拒否層も一定数いる。指針では健康や信仰などの理由で接種できない従業員への配慮を求めている。グーグルはこうした社員について例外扱いする予定だ。

ウォール街の大手金融機関も実質的なワクチンの義務化に動く。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、モルガン・スタンレーやゴールドマン・サックスは出社する従業員に接種や接種状況の開示を求めている。

ワクチン接種の義務化を巡る議論は欧州にも広がる。フランス議会は26日、マクロン大統領が提案したワクチン接種の一部義務化を含む法案を可決した。医療関係者らに接種を義務付けるほか、一般市民もレストランやバーを訪れる際にワクチン接種の終了や検査での陰性証明を記載した「健康パス」の提示が求められるようになる。

ドイツのメルケル首相は「フランスのような道を進む考えはない」と語り、ワクチン義務化に表向きは距離を置く。ただ、首相の懐刀のブラウン首相府長官は独紙とのインタビューで「ワクチン非接種者はレストランや映画館などに行けなくなるかもしれない」と述べ、非接種者を狙い撃ちした対策を示唆した。

ワクチン接種がある程度広がる欧州では重症者や死亡者は抑えているが、感染拡大が続けば回復基調の景気の腰を折りかねない。欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は22日の記者会見で「デルタ型が不確実性を高めている」と語った。米国内でもオフィス街への人流の回復が遅れれば「飲食店など周辺のサービスセクターに打撃を与える」(米紙ニューヨーク・タイムズ)といった見方が強い。

マクロン仏大統領、国民の接種拒否「無責任で身勝手」


「あなたの自由にどんな価値があるのか。それは自由ではなく、無責任で身勝手な行為だ」。東京五輪の開会式出席後、南太平洋のタヒチ島に立ち寄ったフランスのマクロン大統領は、ワクチンの接種を拒否する人々を厳しい表現で非難した。
フランス議会は26日、マクロン氏が提案したワクチン接種の一部義務化を含む法案を可決した。医療関係者らにワクチンの接種を義務付けるほか、一般の市民もレストランやバーなどを訪れる際にワクチン接種の終了や検査での陰性証明を記載した「健康パス」の提示が求められるようになる。
直前にはフランス全土で16万人以上が法案への抗議活動に参加した。マクロン氏の政治は「衛生独裁」にほかならず、フランス社会がこれまで何よりも重視してきた自由を踏みにじるものだというのが参加者の主張だ。マクロン政権は罰金の引き下げなどで妥協したが、法案自体は押し通した。
「自由! 独裁はいらない」とプラカードを掲げるフランスのデモ参加者(パリ、24日)=ロイター
隣国のドイツでは現在、コロナ検査が無料で受けられ、陰性ならレストラン屋内での食事などを楽しめる。ショルツ独財務相は27日、このコロナ検査についても「誰もがワクチンを接種できるようになったら、費用を公費で負担することはできない」と指摘した。非接種者をじわり追い込み、ワクチン接種を事実上強制しようとしているとの見方もある。
独仏での議論の盛り上がりの背景には、デルタ型の感染拡大がある。ワクチン接種がある程度広がっているため、重症者や死亡者は抑えられているが、このまま感染が増え続ければ、せっかく回復基調が強まってきた景気の腰を折りかねない。
コロナとの共生を主張し、19日に行動制限をほぼ撤廃した英国。ジョンソン英首相は28日、英ラジオの番組で「ワクチンを接種した成人の割合は世界で最も高い。これにより経済を前に進めることができる」と胸を張ったが、異変も起きている。
ロンドン市内のスーパーでは一部の棚が空になり、ヒースロー空港には長蛇の列ができた。1日の感染者が5万人を超えるまでに増えた結果、国民医療制度(NHS)のスマートフォンのアプリで感染者との接触の可能性を知らされ、自己隔離する人が急増。出勤できない人が続出したためだ。製造現場でも人手不足が深刻だ。
ECBのラガルド総裁は22日の記者会見で「デルタ型が不確実性を高めている」と語った。独Ifo経済研究所が26日公表した7月の企業景況感指数は6カ月ぶりの悪化となり、同研究所は「再び高まる感染者数がドイツ経済の重荷になっている」と指摘した。
フランスは来年4月に大統領選挙、ドイツは9月に連邦議会選挙を控えている。独仏とも与党が盤石とは言いきれない。独仏がワクチン接種の加速を促す裏には、できるだけ早く危機収束のめどをつけ、有権者の支持を引き寄せたいという政治の思惑も見え隠れする。(ベルリン=石川潤、ロンドン=佐竹実)

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