トルコ、実感なき高成長 1~3月GDP7%増も市民困窮

【イスタンブール=木寺もも子】トルコ統計局が31日発表した1~3月期の実質国内総生産(GDP)は前年同期比7%増だった。ロックダウン(都市封鎖)中も操業を続けた製造業がけん引した。ただ、広義の失業者が3割近くに上るなど、一般市民の生活は苦しさを増す。夏の観光業などサービス業の復活が本格回復のカギを握る。
セクター別では製造業が12%増だった。輸出事業者組合によると、1年前より対ドルで2割安い通貨リラの恩恵を受けた輸出がドル建てで17%増になるなど需要が拡大した。サービス業は5.9%増だった。

新型コロナウイルス禍でもトルコ経済は3四半期連続で前年同期比5%超の成長を記録している。エルドアン大統領は26日、米企業経営者らとのビデオ会議で「20カ国・地域(G20)の中で中国に次ぐ高成長を達成した」と誇り、2021年の先行きにも自信を示した。
一方、国民の経済への不満は強い。シンクタンク、イスタンブール経済研究所の5月の世論調査によると、経済が「非常に悪い」とした人は50%、「悪い」は19%だった。「非常に良い」と「良い」は計12%だった。5月の与党支持率は26%と、1年前から13ポイント下落した。
中銀OBのエコノミスト、ウール・ギュルセス氏は「実態は四半期の成長率から見えるほど良くない」と指摘する。18年の通貨危機「トルコショック」後に伸び悩んだ反動で成長率が高く出がちだという。飲食店などは約半年にわたり閉鎖状態で、一時帰休の人などを含む広義の失業率は28%に達する。前年同月比で17%台の消費者物価指数(CPI)も生活を圧迫する。
28日に対ドル史上最安値を更新したリラ安も「実感なき成長」の理由の一つだ。ドル名目GDPは16年以降、減少が続いている。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの土田陽介氏は「経済成長すれば通常、通貨は上昇する。大幅な通貨安を伴う成長は経済の発展に必要な富の蓄積をもたらさず意味がない」と指摘する。
光明は新型コロナウイルスのワクチンだ。既に中国科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)製を中心に1200万人が2回の接種を終えた。6月までに米ファイザー・独ビオンテック製3000万回分が追加で届く予定で、接種は加速する見込みだ。
4月に1日あたり6万人を超えた新規感染者数は直近で7000人を切った。夏の経済のカギを握る観光業の復活に向け、感染拡大を理由にトルコへの直行便を取りやめたロシアや英国、ドイツなど主要な送り出し国との本格的な往来再開への期待が強まっている。