サル痘、緊急事態宣言から1カ月 欧州では落ち着きも

【ロンドン=佐竹実】世界保健機関(WHO)がウイルス感染症のサル痘について緊急事態宣言をしてから1カ月が過ぎた。欧州では感染に落ち着きの傾向がみられるほか、米国でも感染拡大の勢いが弱まっている。サル痘は天然痘ワクチンでも発症予防などの効果があるとされており、米欧などはワクチンの接種などの対策を強化している。
WHOは7月23日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に該当すると宣言し、加盟国に検疫の強化などを求めてきた。年初から25日時点までの感染確認数は99カ国・地域で4万5千件強、死者は15人にのぼった。
15~21日の1週間の感染数は5929件で、前の1週間に比べて21%減った。欧州地域では同期間の感染数が970件で64%減った。米州地域は4919件で4%増だったが、増加幅は縮小してきている。
米メディアによると、米疾病対策センター(CDC)のワレンスキー所長は26日、感染者数について「依然として増えているが、そのペースは緩やかになっている」と指摘。感染動向を慎重に見極める姿勢を続けながらも、ワクチン供給の効果などが出てくることに期待を示した。
サル痘は天然痘に似た感染症だが、病原性は天然痘ほど高くないとされる。発熱やリンパ節の腫れなどの症状が出るものの、今回の流行では多くが軽症で数週間ほどで自然回復している。感染経路は男性同士の性交渉によるものが多く、新型コロナウイルスなどのように急拡大していない。
テドロス事務局長は7月に「感染拡大は男性と性交渉する男性、特に複数の性的パートナーを持つ男性に集中している。適切なグループに適切な戦略を取れば、拡大を止められる」と指摘した。一方で、偏見や差別もやめるよう警告した。
サル痘はアフリカで見られる感染症だったが、5月に英国で発見されてから欧州に一気に広がった。WHOは新型コロナの流行初期に対応が後手に回ったと批判された経験があり、早期の宣言に踏み切ったとみられる。
WHOは感染症の流行のスピードや致死率などを分析し、「国際的に病気が拡大して他国に公衆衛生の危険をもたらす」ことや、「緊急に国際的な対策が必要」と判断した際に緊急事態宣言を出す。
今回は6月と7月に専門家による緊急委員会を招集し、緊急事態に該当するか否かについて助言を求めたが、緊急委のメンバーの意見は割れて合意しなかった。テドロス事務局長は対策を急ぐ必要があると判断して宣言に踏み切った。