化石燃料の需要、20年代半ばに頭打ち IEA見通し

【ブリュッセル=竹内康雄】国際エネルギー機関(IEA)は27日、世界の化石燃料の総需要が2020年代半ばから減少に転じるとの分析を盛り込んだ報告書を公表した。ロシアのウクライナ侵攻に端を発するエネルギー危機を受け、各国で脱化石燃料の動きが加速するためだ。ただ地球温暖化防止の国際枠組み「パリ協定」の達成にはほど遠い。
IEAは「世界エネルギー見通し2022」で①現行の政策に基づく場合②各国がパリ協定に関連する約束を実行した場合③50年に世界の排出量が実質ゼロになる場合――の3シナリオを検討した。現行政策のシナリオでも、化石燃料の需要が近くピークを迎える可能性が高まったと強調した。

足元のエネルギー供給不安で一部の国は石炭火力発電所の建設や再稼働に動いているが、IEAは石炭需要の増加は一時的で今後数年で減少に転じるとの見解を示した。天然ガスは30年までに頭打ちになるほか、石油は電気自動車(EV)の普及で30年代半ばにピークに達し、今世紀半ばにかけて緩やかに減少する。
ウクライナ危機を受け、各国はエネルギー調達の多様化や再生可能エネルギーの拡大に動いている。
米国はインフレ抑制法とも呼ばれる歳出・歳入法を、欧州連合(EU)はロシア産エネルギー依存を早期に脱却する「リパワーEU」を打ち出した。日本も官民で10年間に150兆円規模のGX(グリーントランスフォーメーション)を推進する計画だ。中国やインドも含め、化石燃料から排出ゼロのエネルギー源への移行が加速している。
化石燃料の需要は産業革命以降、国内総生産(GDP)とともに増加してきた。報告書は、成長しながら化石燃料を減らすことは「エネルギー史で極めて重要な出来事だ」と訴えた。
地球の温暖化防止の観点ではなお不十分だ。現行シナリオでは、エネルギー供給は増え続け、50年には21年から2割弱増える。化石燃料の比率は徐々に減るものの、50年でもなお6割を占める。世界のエネルギー起源の二酸化炭素(CO2)は21年の366億トンから50年に320億トンに減るにすぎない。
このシナリオでは産業革命前からの気温上昇は今世紀末で2.5度になる。2.5度では洪水や熱波などの異常気象が頻発し、生態系への影響も甚大になる。パリ協定は産業革命前からの気温上昇を2度未満、できれば1.5度以内に抑えることを求めている。
目標達成には需要全体を減らさねばならない。1.5度目標に向け50年に世界の排出を実質ゼロにするシナリオでは、50年のエネルギー供給は21年から15%減らし、その7割を再生エネでまかなう必要がある。IEAは「(1.5度目標の)達成は難しいがまだ可能だ」と指摘する。
現行シナリオでは世界のクリーンエネルギー投資は30年までに現行の5割増の年間2兆ドルになる見通しだ。1.5度目標の達成には4兆ドル超が要る。再生エネからの供給は30年には21年の2倍強、原子力も4割増やす必要がある。
一方、西側諸国の化石燃料の輸入禁止などの制裁でロシアは自国産エネルギーの売却先をアジアに振り向けようとしている。IEAは全量の代替先を見つけるのは難しいとの認識を示した。21年には世界のガス貿易量の30%を占めたロシア産は、現行シナリオでも15%に落ち込むと予測した。
大きな理由は中国が再生エネへのシフトを強めていることだ。中国のガス需要の伸び率は10年代が12%だったが、30年までは2%程度に減速する見通しだ。

11月に「第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議」(COP27)がエジプトで開催されます。どのような議題で議論がなされ、どういう合意がなされるかが注目されます。最新のニュースと解説をお届けします。
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