チュニジア大統領、議会停止し首相を解任 民主化に陰り

【カイロ=久門武史】北アフリカのチュニジアのサイード大統領は25日、政府の新型コロナウイルス対策を批判するデモの拡大を受け、国民代表議会を30日間停止しメシシ首相を解任すると表明した。中東の民主化運動「アラブの春」によって例外的に根付いたとみられた議会制民主主義に逆行する動きで、主要政党は強く反発している。
サイード氏は25日夜のテレビ演説で「憲法は議会の解散を認めていないが、議会活動の停止を妨げてはいない」と説明。一時的に自らが行政権を行使すると語った。一連の決定は「社会の平和を取り戻すまで」の措置だとも強調した。
同国では2011年に市民のデモで長期独裁政権が倒れた「ジャスミン革命」後、大統領が国防や外交を、首相が主な行政権をそれぞれ握る新憲法を14年に施行した。権力分散と民主化を進めたが、今回の決定によりそれが後退する懸念が出ている。主要イスラム政党アンナハダ出身のガンヌーシ議長は「革命と憲法に対するクーデターだ」と批判した。
現地からの報道によると、25日に首都チュニスなど各地で数千人の市民が議会解散を求めるデモを実施しており、議会停止を歓迎する声が上がった。軍部隊は議会周辺に展開して厳戒態勢を敷き、26日、ガンヌーシ氏が議会に入るのを阻止した。
チュニジアの政治評論家サラハディン・ジョルシ氏は、議会停止宣言の背景にはサイード氏とアンナハダの対立があるとした。そのうえで「大統領の動きは政治の安定と民主的手続きに重大な影響を及ぼす」と指摘した。
チュニジアでは10年12月、失業中の男性が路上販売に対する取り締まりに抗議して焼身自殺を図ったのを機に反政府デモが広がり、11年1月に20年以上続いたベンアリ政権が倒れた。エジプトなど中東各国で強権体制が次々と崩壊する「アラブの春」の先駆けとなった。その後、権威主義体制に回帰する国や内戦で荒廃する国が相次ぐなか、民主化が定着した数少ない「成功例」とみなされていた。

半面、短命内閣が続いて有効な経済対策を打てず、長引く経済の停滞に市民は不満を募らせている。国際通貨基金(IMF)によると20年の実質経済成長率はマイナス8.8%に落ち込んだ。失業率は15%前後で高止まりしている。
苦境に追い打ちをかけたのが新型コロナの感染拡大だ。6月下旬から新規感染者が急増し、7月に入り1日当たり1万人に迫る日もあった。人口約1200万人の同国で感染者数はすでに55万人を超え、死者は約1万8千人に達した。
医療体制が逼迫するなか、政府は20日に保健相の解任を発表していた。ただ、政府を批判するデモは収まらず各地に拡大。中部スファクスなどでデモ隊が治安部隊と衝突し、チュニスではアンナハダの事務所が襲撃されていた。