開く世界、閉じる日本 海外で往来再開の動き
ワクチン・陰性証明で ビジネス・観光回復の切り札に

新型コロナウイルスワクチンの接種などを条件に、国境をまたぐ往来を再開させる動きが始まっている。ワクチン接種や検査での陰性が証明できれば隔離も免除する。世界に門戸を広げスムーズな往来でビジネスや観光を活性化する。国内の接種も進まない日本は閉ざされたままで、世界の往来再開の動きに乗り遅れる懸念がある。
香港とシンガポールの両政府は5月26日から、新型コロナウイルス検査などを条件に、到着後の強制隔離なしで双方を往来できる「トラベルバブル」を始める。香港居住者には2回のワクチン接種後、14日間経過した場合に対象となる。
香港とシンガポールは厳しい防疫措置をとり、域内の感染をほぼ抑え込んだことで、往来再開の実現にこぎつけた。「公衆衛生と渡航の利便性のバランスをとり、確実性を保ちながら市民が安心して旅行できるようにする」。香港の邱騰華(エドワード・ヤウ)商務・経済発展局長はこう意気込む。
5月26日~6月9日は双方から1日1便、6月10日以降は双方から1日2便を飛ばす。1便あたりの旅客は200人とする。両者はアジアの主要な金融都市だけにビジネス需要が見込めそうだ。低迷する航空や観光業界も期待を高めている。
オーストラリアとニュージーランドも感染を封じ込んだとして、4月19日から往来を再開した。初日だけで7000人以上の往来があった。家族や親戚に会う目的での利用が多いが、今後はビジネスやレジャーでの需要拡大も見込まれる。「国民の安全を守りながら経済を活性化する」。モリソン豪首相はSNS(交流サイト)で表明した。

感染リスクを十分に低減できれば、受け入れを進める動きは欧州でも始まっている。欧州委員会のフォンデアライエン委員長は25日、米紙でワクチン接種などを条件に欧州連合(EU)加盟国が今夏に米国からの訪問客を受け入れる見通しを示した。ギリシャはワクチン接種やPCR検査などを条件に4月からEU諸国などからの入国を認めており、5月中旬には対象を全世界に広げる。
もっとも、往来の本格的再開には課題もある。接種や検査結果の国際的な認証や証明だ。現時点では証明書の相互認証に向けた標準規格はなく、国や地域でばらつきがある。例えば中国で入国手続き簡素化の恩恵が受けられるのは同国製ワクチンの接種者のみだ。別のワクチン接種では認められない。
実際の渡航や入国の場面でも、確認作業に手間がかかるという問題がある。航空会社や出入国管理当局などの職員が空港などで、各国や各検査機関が独自の書式で発行した証明書をひとつずつ手作業で確認していく必要があるためだ。
そうした不便さを解消するために、共通規格をつくる動きも始まっている。EU加盟国はワクチン接種などをデジタルで証明する共通規格に合意した。早ければ6月にも導入する。国際航空運送協会(IATA)も近く証明書アプリの運用を始める。共通規格の普及で往来は格段にスムーズになる。
日本はワクチン接種者など感染リスクを減らした人のスムーズな往来再開の動きに後れを取っている。現状では海外からの入国者はワクチンを接種していても、未接種者と同じく2週間の隔離が必要だ。経団連の古賀信行審議員会議長は26日、西村康稔経済財政・再生相とのテレビ会議でワクチン証明書の制度導入を要請した。
ワクチンが普及する前に証明書の仕組みで国際的な往来を検討しなければビジネスや観光などで「諸外国に大きな後れを取ってしまう」(経団連関係者)。日本はワクチン接種のスピードアップとともに、往来再開へ向けた仕組みづくりも急務になっている。
(イスタンブール=木寺もも子、杉浦恵里)