中東アフリカ、対ロ制裁に冷ややか 食糧や兵器で依存

【カイロ=久門武史】ウクライナに侵攻したロシアへの米欧主導の制裁に、中東アフリカ諸国が冷ややかだ。食糧や兵器をロシアに頼る国が多く、産油国の連帯もある。人権を理由にした対ロ圧力にはいっそう消極的だ。ロシアが孤立を深めるばかりと言い切れない一因になっている。
国連総会で7日採択されたロシアの人権理事会の理事国資格を停止する決議は、過去の決議より態度を後退させる国が急増した。人道状況の改善を求めた3月24日の決議で棄権したが今回は反対に回った18カ国のうち、中東アフリカからは8カ国だった。賛成から棄権に転じた39カ国をみると過半を占めた。
ロシアによる切り崩し工作に加え、自らも強権的な体制で、かねて人権重視を掲げるバイデン米政権を煙たく思ってきた国は多い。決議を主導した米国との隙間風がささやかれるケースもある。それ以上に、ロシアとの実利的な関係を無視できない。
まず主要産油国の協力は揺らぎそうにない。ウクライナに侵攻直後の3月上旬、ロシアのプーチン大統領はサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の指導者と相次いで電話協議した。ロシア大統領府によると原油生産を巡り「協調を続ける」ことで一致した。
アラブ産油国は伝統的に親米だが、今回ロシアへの制裁にはそろって背を向けた。サウジ主導の石油輸出国機構(OPEC)は非加盟のロシアを巻き込んだ「OPECプラス」として協調して産油量を増減させ、発言力を強めてきた。ロシアとの関係を損ね、この枠組みを危うくする理由はない。

サウジやUAEはイエメンの親イラン勢力との戦いで米国の支援が弱いと感じ、バイデン政権がイラン核合意の再建を目指していることも気に入らない。サウジには2018年の著名記者殺害を巡る疑惑で米欧から白眼視された苦い記憶もつきまとう。
穀物を輸入に頼る国が多く、一大産地のロシアを敵に回せない事情もある。人口が1億人と中東で最も多いエジプトは世界最大の小麦輸入国で、大半がロシアからだ。既に小麦価格の高騰に苦慮し、パンの価格統制に追われている。エジプトのスエズ運河庁は、ロシア艦船の通航禁止を米国が求めたとの臆測が浮上すると「運河は中立だ」と明確に否定した。
トルコもロシアの小麦を大量に輸入しているが、食糧安全保障に加え外交上の得点を狙っている。ロシアとウクライナの仲介役を演じ、国際的地位を高める思惑ものぞく。3月、両国外相の対面での停戦協議をお膳立てした。
アフリカを見渡せば、兵器や雇い兵の供給でロシアの影響力が強まっている。マリは旧宗主国フランスの部隊が撤退する空白を埋めるように、ロシアの民間軍事会社ワグネルと契約したとみられている。
中央アフリカやモザンビーク、スーダンにもロシアの軍事支援は浸透し、兵器輸出ではアルジェリア、アンゴラなどでロシアが特に高いシェアを握る。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、ロシアはサハラ砂漠以南のアフリカに対する最大の輸出国になった。ロシアがそっぽを向けば自国の安全保障が揺らぎかねない。
米ブルッキングス研究所のダニエル・レズニク研究員は「アフリカ諸国は貿易や投資、支援の多様化へ東西両勢力のいずれとも関係を築こうとしている」と指摘する。ロシアや中国が急速にアフリカに浸透するなか、中ロと対立する米欧に肩入れするリスクも計算しているもようだ。
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