中国EU投資協定、早期発効困難に 欧州議会が審議凍結
【ブリュッセル=竹内康雄】欧州議会は20日、欧州連合(EU)と中国が大筋合意した投資協定について、批准に向けた審議を停止する決議を賛成多数で可決した。少数民族ウイグル族の人権問題に絡んだEUの対中制裁に中国が報復措置をとったことに反発した。投資協定の批准には欧州議会の同意が必要で、早期発効は困難になった。
決議の採決は賛成599、反対30、棄権58だった。EUは3月、少数民族ウイグル族の不当な扱いが人権侵害にあたるとして、中国の当局者らに1989年の天安門事件以来、約30年ぶりとなる渡航禁止や資産凍結といった制裁を科した。中国はこれに即座に反発し、欧州議員らに報復制裁を発動した。欧州議会の決議はこの報復措置を踏まえた対応だ。
決議は中国による報復措置が「根拠がなく、恣意的だ」と非難。制裁が解除されない限り、投資協定の審議には応じない姿勢を明確にした。EUが批准手続きを終えるには、欧州議会の同意が必要だ。
中国との協定の交渉を担ってきた欧州委員会のドムブロフスキス上級副委員長(通商政策担当)は20日の記者会見で、報復措置により「批准に向けて動くのにふさわしい環境ではない」と、現状ではEUとして批准手続きを進めるのは難しいと認めた。欧州委は早期発効を目指していたが、その時期は遠のいた。
EUと中国は2020年12月、包括的投資協定(CAI)を締結することで大筋合意した。合弁要件などの参入障壁が一部撤廃され、EU企業が中国市場に参入しやすくなるのに加え、中国の国有企業への補助金の透明性を高めたり、参入企業への技術の強制移転を禁止したりするなどの措置を盛り込んだ。
合意の背景には、新型コロナウイルスの感染拡大で落ち込んだ経済を立ち直らせたいEUと、バイデン米政権発足前にEUとの結びつきを強めたい中国の思惑が一致したことがある。
だが投資協定には大筋合意段階から根強い批判はあった。香港での民主派の強硬な取り締まりや、次世代通信規格「5G」に絡む華為技術(ファーウェイ)のスパイ疑惑、南シナ海での航行の自由を軽視するような振る舞いに、EUの中国への不信感は高まっていた。
欧州議会の決議は「中国との関係でバランスを取り戻すことが必要だ」と、経済だけでなく、人権や民主主義などEUが重視する基本的な価値も含めて、中国との関係を再考すべきだと主張した。