EU、天然ガス価格上限で合意 1メガワット時180ユーロ

【ブリュッセル=竹内康雄】欧州連合(EU)は19日のエネルギー相理事会で、足元のエネルギー価格高騰を抑えるため、天然ガス料金に上限を設定することで合意した。一定の条件を満たせば、EUが市場に介入して上限を超えた取引は認めない内容だ。価格高騰に歯止めをかけ、企業や家計に安心感をもたらす狙いがあるが、ガスの安定確保には懸念が残る。
「我々は市民をエネルギー価格の高騰から守る重要な合意を見いだすことに成功した」。EU議長国チェコのスィーケラ産業・貿易相は会合後の声明で合意に胸を張った。新制度は加盟国の書面手続きをへて発効し、2023年2月15日から運用が可能になる。1年間の時限措置とする。
新制度は天然ガス価格指標のオランダTTFが1メガワット時当たり180ユーロを上回ったうえで、世界の液化天然ガス(LNG)価格から35ユーロ高くなり、これが3日間続いた場合に発動されるという内容だ。いったん発動されれば、20日間は続く。
ねらいはガス価格の高騰の抑制だ。TTFは19日、108~109ユーロで取引された。ロシアのウクライナ侵攻後は300ユーロを超える場面もあった。価格高騰は企業経営や家計への負担になり、政治不信につながるとの危機感がある。
23年に価格が高騰すれば、十分なガスを確保できないリスクもある。EUはロシア産エネルギーへの依存解消をめざし、加盟国に需要期の冬を乗り越えるためにガスの十分な貯蔵を義務づけている。制度は特定の国を指していないが、念頭にあるのはロシアで、ロシアの反発は確実だ。
ドイツなどは価格上限を設定することで、ガス産出国が欧州を避けてアジアなどに売る懸念があると反対していたが、ガスが不足した場合は上限設定を解除できるなどの措置を導入したことで譲歩した。
しかし、オランダのイェッテン気候・エネルギー相は「欧州の安全保障を引き続き懸念している」と、十分な調達に支障が出る可能性があると懸念を示した。新制度はEU独自の多数決で採択し、オランダとオーストリアが棄権し、ハンガリーは反対した。
EUの執行機関である欧州委員会は11月下旬に1メガワット時275ユーロの上限などを提案した。だが南欧や中東欧諸国からは価格が高すぎて実効性がないと批判が強かった。EUは12月15日の首脳会議で年内に合意するよう閣僚に指示していた。
価格上限を推進していたポーランドのモラウィエツキ首相はツイッターに「我々多数派連合は主にドイツからの抵抗を打ち破った」と歓迎するとともに、「ロシアとガスプロムの市場操作に終止符を打つ」とツイッターに投稿した。
石油については、主要7カ国(G7)とEU、オーストラリアは今月5日から1バレル60ドルの上限を導入した。欧米の金融機関に対して、上限を超える取引での海上保険や再保険の引き受けを禁じている。
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