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トルコで進むイスラム化 コロナを理由に「禁酒令」も

イスタンブール 木寺もも子

イスラム教徒が大多数ながら世俗主義を掲げるトルコで、酒類に対する規制が強まっている。4~5月のラマダン(断食月)中には、新型コロナウイルス対策を理由に販売の禁止まで踏み込んだ。イスラム教を政治に反映させたいエルドアン大統領の政策は、トルコの脱欧米、中東化の動きとも重なる。

ロックダウン中、食品スーパーの酒類コーナーは閉鎖された(14日、イスタンブール)

「通達により、このコーナーは閉鎖です」。4月下旬、トルコ政府はラマダン終了後までの約3週間にわたる全面的なロックダウン(都市封鎖)に加え、期間中の酒類販売の禁止を決めた。ロックダウン中も営業を続ける食品スーパーなどでも、酒類コーナーは規制を示すテープで覆われ、販売の中止を告げる紙が張られた。

断食月なのに酒類の販売は増加

ロックダウン入り直前には多くの人が酒類の確保に走った。西部トラキア地方の中規模ワイナリーは顧客から配達の可否を尋ねる電話を約30件受けたという。女性スタッフは「(多くの人が飲酒を控える)ラマダン中にこんなに酒類が売れたのは初めてではないか」と苦笑いを浮かべた。

ロックダウンは17日に終了したが、5月中の週末は外出と酒類販売の禁止が続く見込みだ。「自宅での飲酒は感染抑制と関係ない」「個人の生活への不当な干渉だ」との批判の声も上がる。

エルドアン大統領のイスラム主義政党は2002年に政権を握って以降、これまでも酒類に圧力をかけてきた。税率は年々引き上げられ、13年には法律で夜10時以降の酒屋での販売や酒類の広告を禁止した。酒の製造や販売にかかわる事業者はスポーツイベントなどへの協賛もできない。

見えない締め付けも強まる。政府の規制に反対する酒屋団体のオズギュル・アイバシュ代表によると、トルコにはスーパーなどを含め15万以上の販売店があるが、この数年は新たな販売店や支店開設の許可を得るのが困難になっている。保守的な地域では、当局が「酒は罪だ」として申請を受け付けない事例もあるという。

飲酒を禁じるイスラム教を重視するエルドアン氏は酒嫌いで知られる。アイバシュ氏らは「将来的には、非ムスリムの外国人らに限って酒を提供するアラブ首長国連邦(UAE)のドバイのような形を目指しているのではないか」と警戒する。

イスラム圏では珍しい豊かな飲酒文化

豊かな飲酒文化を持ち、ビールやワイン、蒸留酒「ラク」などの生産も盛んなトルコは、イスラム圏の中では珍しい。飲酒は1923年の共和国建国後まもなく法律で認められ、自身も酒好きだった初代大統領のアタチュルクは国営ワイナリーの設立を推進した。

酒類の生産も盛ん(2020年7月、エーゲ海沿岸のワイナリー)

背景にはトルコの世俗主義がある。イスラム教に根ざした政治や社会を後進的とみなしたアタチュルクは、宗教と政治の分離を徹底し、西洋化にまい進した。トルコは日本では一般に中東に位置づけられるが、国際機関や欧米メディアなどでは欧州の区分に入ることも多い。北大西洋条約機構(NATO)の一員で、99年には欧州連合(EU)の正式な加盟候補国となった。

この流れを大きく逆転させ、中東化を進めているのがエルドアン政権だ。2020年にはアタチュルクが非宗教施設の博物館とした世界遺産の旧大聖堂「アヤソフィア」をイスラム教のモスクに再転換し、今年3月には女性へのドメスティックバイオレンス(DV)防止を目指す欧州評議会の条約「イスタンブール条約」から脱退を決めた。外交ではイスラム教徒の同胞としての立場からパレスチナ問題に積極的にかかわり、EU加盟交渉は事実上、凍結状態だ。

規制強化に乗り出すエルドアン大統領

酒類への規制強化も、エルドアン氏が目指すイスラム教や伝統的な価値観重視の一環といえる。13年に規制法を制定した際は、暗にアタチュルクらを指して「どうして飲んだくれの作った法律が尊重され、宗教心に基づく法律が否定されなければいけないのか」と語っている。

建国の父アタチュルクの肖像とエルドアン大統領(2019年6月、アンカラ)

こうしたイスラム重視は、それまで顧みられることの少なかった大多数の保守層の声をすくい上げた功績がある。旧来の世俗派エリートは極端な世俗主義の下、公共の場で女性がスカーフを着用することも認めていなかった。統計局によると、15歳以上で「一度も酒を飲んだことがない」という人は7割を超え、酒をたしなむのは2割程度の少数派とみられる。

ただ、飲酒を好む自由の制限まで至れば、世俗主義を国是とする民主主義国家としての一線を超える。世論調査「トルコリポート」によると、ロックダウン期間中の販売禁止が「適切でない」と考える人は56%と、「適切だ」とする44%を上回った。非飲酒層も一定の危機感を抱いていることをうかがわせた。

米ワシントン近東政策研究所のソネル・チャアプタイ氏は「エルドアン氏は、自らの国家像で国を作り替えようとしている指導者という点でアタチュルクとよく似ている」とした上で、「抱く国家像が正反対だ」と指摘する。共和国の建国から23年に100周年を控え、欧州とアジアの間に位置する国が揺れている。

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いま大きく揺れ動く、世界経済。 自分か。自国か。世界か。このコラムでは、世界各地の記者が現地で起きる出来事を詳しく解説し、世界情勢の動向や見通しを追う。 今後を考えるために、世界の“いま”を読み解くコラム。

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