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トルコ、黒海―地中海に運河着工へ 軍事均衡に影響も

欧州(手前側)とアジアを隔てるボスポラス海峡

【イスタンブール=木寺もも子】トルコは今夏にもボスポラス海峡を迂回する全長40キロ超の運河の建設を始める。地中海と黒海を結ぶ同海峡は条約で黒海沿岸国以外の軍艦通航を大幅に制限しているが、運河ができれば条約が無効になるなどと懸念する声が上がっている。黒海を巡る米ロの微妙な軍事バランスに影響を与える可能性もある。

「国内外の投資家が参加するだろう」。トルコのエルドアン大統領は16日、6月から「イスタンブール運河」の建設に取りかかると明らかにした。運河はアジアと欧州を分けるボスポラス海峡から欧州側に十数キロ離れた場所に開通させる。

全長45キロほどの運河は総工費750億リラ(約1兆円)とされる。エルドアン氏は支持基盤に大手建設会社を抱え、空港など大型インフラ建設で経済成長を実現してきた。新型コロナウイルス禍で広義の失業率が3割近くに上る中、景気浮揚の起爆剤にする狙いがある。

3月に建設計画を政府承認して以降、運河は国内外で議論を呼んでいる。既存のボスポラス、ダーダネルス両海峡の扱いを定めた1936年のモントルー条約に影響する可能性があるためだ。黒海の非武装化を目指したこの条約は、両海峡へのトルコの主権を幅広に認める。黒海沿岸国以外の軍艦往来をより厳しく制限し、通航の際はトルコへの事前通告などを義務付けている。

米国が今月、ウクライナ支援のため、黒海に軍艦2隻を派遣しようとした際もトルコに通告していた。運河という「バイパス」ができればモントルー条約の前提条件が崩れるとの指摘がある。元外交官、退役軍人らは相次いで運河がトルコの安全保障を脅かすとする公開書簡を発表し、一部は当局に拘束された。

神経をとがらせるのはロシアだ。モントルー条約がなければ米欧の艦船が玄関口の黒海に自由に進入してくる恐れがある。プーチン大統領は9日、エルドアン氏に電話して「モントルー条約の維持は重要だ」と伝えた。一方、元米国務副次官補のマシュー・ブライザ氏は「モントルー条約体制の見直しは北大西洋条約機構(NATO)にとって大きな好機だ」と指摘する。

トルコは運河ができてもモントルー条約に影響はないとの立場を示しているが、トルコによる脱退論はくすぶる。条約は民間船舶が両海峡を自由に航行できることを保証しており、現状では船会社側がほぼ無料のボスポラスを迂回して運河を選ぶメリットが薄いためだ。

エルドアン氏は「将来必要が生じればどんな(国際)合意もためらわず見直す」と含みを持たせる発言をしている。条約の破棄や変更はトルコにとって不利とみられるが、揺さぶりによって米欧とロシアの間で外交的利益を得ようとする思惑が透ける。

運河建設には、環境や経済的な持続性を問題視する声も強い。政府はボスポラスの混雑を緩和し、安全性を高められると説明。年間10億ドル(約1100億円)の通航料収入が得られるとも試算する。ただ、「トルコストリーム」「ノルドストリーム」などのパイプラインが完成したことでタンカーの輸送需要が減っている。

野党によると、過去15年で海峡を通る船舶は4分の3に減った。シンクタンクEDAMのシナン・ユルゲン会長は「運河の収益性は未知数で、着工したとしても完成するとは限らない」と指摘する。

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