トルコ、中東近隣外交立て直し 孤立に危機感

【イスタンブール=木寺もも子】トルコが中東域内で対立してきたエジプトやイスラエルとの関係立て直しに動いている。トルコに厳しい姿勢をとるバイデン米政権の発足や、イスラエルとアラブ諸国の接近で孤立を深めているためだ。対外関係の悪化は通貨安による国民の負担につながっており、従来の強硬な外交姿勢の修正を余儀なくされている。
トルコのチャブシオール外相は12日、8年ぶりにエジプト政府と外交協議を行ったことを明らかにした。エルドアン大統領は同日「エジプトとは友人として付き合える」と述べ、従来の姿勢を修正してみせた。
トルコはエジプトのシシ政権が2013年にクーデターで打倒したモルシ前政権と親密で、エルドアン氏はこれまでシシ大統領を「暴君」「民主主義殺し」などと激しく非難していた。
パレスチナ問題を巡って対立してきたイスラエルとの接触も明らかになった。同国メディアによると、ネタニヤフ首相は11日、東地中海のガス田開発を巡り「トルコとも協議している。とても良い動きだ」と述べた。
エルドアン氏はかねてイスラエルのパレスチナ占領政策を厳しく非難し、18年に米大使館がエルサレムに移転すると自国の大使を召還、イスラエル大使を事実上追放した。以来、双方の大使は不在の状況が続いている。
トルコの方針転換の背景には、外交的な孤立への焦りがある。米国では1月、トルコの強硬外交や人権状況に批判的なバイデン政権が誕生したが、電話での首脳協議はいまだに実現していない。東地中海でのガス田開発を巡っては欧州連合(EU)が対トルコ制裁を科した。
一方、イスラエルは20年9月以降、アラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンなど敵対していたアラブ諸国と国交を樹立する歴史的な外交成果を挙げた。ガス開発を巡っては、イスラエル、エジプト、ギリシャ、キプロスが事実上の「反トルコ連合」を組み、欧州への輸出を模索。米欧も後押しする。
経済面の事情も見逃せない。欧米との関係悪化でトルコの通貨リラは下落が続き、国内の物価高騰につながった。国民は新型コロナウイルス下での物価高と失業増に不満を募らせている。調査会社メトロポールによると、政権支持率は20年12月以降、不支持率を下回った。
エジプトに加え、カタール支援を巡って関係が悪化したサウジアラビアやUAEはトルコ製品の輸出先やゼネコンなどの進出先として重要な市場だ。複数のトルコ与党幹部は取材に対し、トルコ製品の不買運動が起きたサウジや直行便の就航が半年以上にわたって停止したUAEとの関係改善で「大きな進展が近い」と述べ、水面下での調整に期待を示す。
20年近くにわたってトルコの国政トップに君臨するエルドアン氏は実利重視の現実主義で知られるが、場当たり的との批判もつきまとう。エジプトやイスラエルとの接近は政権を支える保守層の不興を買う不人気策だけに、再度の方針転換のリスクは消えない。
そもそも草の根の保守層を組織して選挙での勝利を重ねてきたエルドアン氏に対し、軍事クーデターで政権を奪取したエジプトのシシ政権や君主制のサウジ、UAE指導部は強い警戒感を持つ。エジプトのシュクリ外相は14日「トルコ外交が真に変化すれば、関係正常化の土台が整うだろう」と述べ、トルコの行動が先決との姿勢を崩していない。