欧州議会副議長ら逮捕 W杯巡りカタールから金銭授受か

【ブリュッセル=竹内康雄】欧州議会の副議長らがサッカー・ワールドカップ(W杯)に関連する汚職に絡んで逮捕された事件が波紋を広げている。カタールが人権問題をめぐるイメージ改善のために、欧州連合(EU)の有力者らに金品を渡したとみられる。欧州議会を舞台とした前代未聞のスキャンダルに、欧州の旗印であるはずの民主主義が揺さぶられかねない。
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ベルギー捜査当局に逮捕されたのは、欧州議会のエバ・カイリ副議長ら。カイリ氏はギリシャ出身の元テレビ司会者で、14人いる副議長の一人。ブリュッセルを中心に10カ所以上を捜索した結果、当局は現金約60万ユーロ(約8600万円)を押収した。
欧州議会のメツォラ議長は10日、現時点ではコメントできないとする一方、「捜査当局に全面的に協力する」とツイッターに投稿した。欧州議会はカイリ氏の副議長職の任務を停止した。同氏が所属する欧州議会の会派、欧州社会・進歩連盟(S&D)は党員資格を一時停止した。
ベルギー捜査当局は「湾岸諸国」に関連する疑惑だとして国名を名指ししていないが、カタールのW杯に絡む汚職事件とみられている。ベルギー紙ルソワールによると、カイリ氏の自宅で現金のほか、カタールからとみられる贈答品が見つかった。
カイリ氏はカタールを訪れて閣僚と会談した後、11月下旬の欧州議会で、W杯を開催するカタールについて「労働者の権利や(雇用主が身元引受人になり、外国人労働者を国外に追放したり、出国許可を与えたりする)『カファラ制度』の撤廃、最低賃金(の設定)で先頭を走っている」と持ち上げた。
カタールはマイナス面のイメージを払拭するために、欧州議会の有力者らに金品などを提供し、EUでの意思決定に影響を及ぼそうとしていた疑いを向けられている。
カタールをめぐって欧州議会は11月、性的少数者や移民労働者への人権侵害を非難する決議を賛成多数で採択した。欧州議会は、中国の人権問題に強硬な姿勢をとり、ロシアをテロ支援国家に指定するよう決議するなど、EU機関のなかでもより民主的な機関と考えられてきた。
一方で、EUや北大西洋条約機構(NATO)本部のあるブリュッセルには、活発なロビイストに加え、スパイも多いとされる。金銭の授受といった典型的な汚職に手を染めたのが事実ならば、EUが世界で訴える民主主義のもろさが足元であらわになったとも言える。
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劣悪労働環境や汚職 戦略誤算、むしろ注目
【ドバイ=福冨隼太郎】カタールは中東で初のサッカーワールドカップ(W杯)を成功に導くことで国際社会でのイメージ向上を狙っていた。しかし、外国人労働者などを巡る人権問題や汚職問題がかえって注目を浴びる結果となった。欧州議会の汚職疑惑についてカタール政府当局者は否定するが、イメージ戦略誤算の痛手は大きい。
カタールは秋田県ほどの面積のアラビア半島の小国だ。100年以上は枯渇しないとされる豊富な天然ガスの輸出で存在感を高めているが、その知名度は同じアラブのサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などに比べて低い。2017~21年にはイランとの関係などを巡ってサウジなどアラブ4カ国と対立し断交を突きつけられた。
開催中のW杯をめぐってはスタジアムなどの建設を巡ってアジアやアフリカなどからの移民労働者が劣悪な環境で働かされていると人権団体などから批判を浴びた。LGBTQ(性的少数者)に対して不寛容な文化や法律も欧米であらためて取り上げられた。
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