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米欧金利、物価高でも下落 市場は緩和継続を重視 

米欧で長期金利の低下(価格は上昇)が進んでいる。5月の米消費者物価指数(CPI)は上昇したが、一時的な要因への反応との見方が浮上。中央銀行の量的緩和は当面続くとの見通しから、国債の売り方の買い戻しが進んだとみられる。金利低下は株などリスク資産への資金流入を促すが、物価の上昇基調自体は続いている。中銀の緩和姿勢は遅かれ早かれ修正を迫られるため、金利低下が続くかは不透明だ。

10日の米10年債利回りは前日から下落(価格は上昇)し、1.4%台と3カ月ぶりの低水準をつけた。欧州の指標となるドイツの10年債利回りも同日、前日比0.01%低下のマイナス0.25%と5月のマイナス0.1%程度から大きく下落した。米欧の金利低下を受ける形で、日本も11日、10年物国債の利回りが一時0.025%と前日比で0.020%下がり、約5カ月ぶりの水準をつけた。

金利が低下すれば、少しでも高い利回りが狙える株や不動産などリスク資産に資金が流れやすくなる。

日米欧で連鎖する金利低下の発端になったのが、10日発表の5月の米CPIだ。上昇率は市場予想を上回る前年同月比5.0%に達した。内訳をみると、前年に新型コロナの感染拡大で物価が急落した反動や、一時的な供給不足の影響が大きいとの見方が広がっている。

たとえば中古車・トラックが前年同月比29.7%上昇している。経済再開に加え、半導体不足に伴う新車の供給減という特殊事情がある。前年には壊滅状態だった航空運賃も24.1%上昇して全体を押し上げるなど、前年の反動の影響もうかがえる。

米インフレの行方はまだ見極められない=米中古車販売店、AP

もともと、米連邦準備理事会(FRB)からは「インフレ率の上昇は主に一時的な要因によるものだ」(クラリダ副議長)など、市場のインフレ懸念へのけん制が相次いでいることもあり、FRBが15~16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)でテーパリング(緩和縮小)の検討開始を表明することはないとの観測が拡大。金利上昇を見込んでいたヘッジファンドなど一部の投資家は当てが外れたとして、ショートカバー(信用売りの買い戻し)し、金利の低下につながったようだ。

欧州の債券市場でも構図は同じだ。欧州中央銀行(ECB)は10日の理事会で、金融緩和の維持を決めた。焦点だった債券購入は「(年初より)かなり速いペース」で続けるというこれまでの表現を踏襲し、月800億ユーロ(約10兆6000億円)程度の買い取りが続く見込みとなった。

経済と物価が上向くなか、ペースを落とすべきだと主張する理事もいたが、「良好な金融環境の維持が欠かせない」(ラガルド総裁)と訴える執行部が押し切った。春先に金利上昇とユーロ高が同時に進んだ経験がECBのトラウマとなり、米国よりも先に緩和縮小に動いて市場を刺激するリスクは避けたいとの思惑が働いたようだ。

問題はこの相場がいつまで続くかだ。市場では8月のジャクソンホール会議までにFRBがテーパリングの検討を表明し、22年に入って実際に開始するとの見方が多い。

米CPIについても、SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは「(中古車など一時的な物価上昇を除いた)実力ベースは2.4%の上昇」と分析。FRBが掲げる安定的な2%の物価上昇という目標に「向かいつつあるのは確かだ」と指摘する。第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストも「賃金上昇を通じたインフレの兆しも表れつつある」と話す。遅かれ早かれFRBはどこかの時点では動かざるを得ないと誰もが思っている。

米欧の公的債務が未曽有の水準に膨れ上がるなか、FRBやECBが金利の急上昇につながる大胆な政策転換に踏み切るとは考えにくい。ただ、経済情勢の進展にあわせた緩やかな金利上昇は容認せざるを得ないという考えが、少なくともECBにはある。FRBが動き出すのを待ち、秋から冬にかけて出口を検討するというのがECBのシナリオだ。

金利低下が進み、米株式相場でも10日、S&P500種株価指数が過去最高値を更新した。一部では(穏やかな経済成長と低金利が併存する)ゴルディロックス相場への期待感も出ているが、中銀の姿勢を考える限り、過度な楽観論は禁物だろう。(ベルリン=石川潤、佐伯遼)

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