ノーベル平和賞受賞のジャーナリスト2人、授賞式に出席
【ロンドン=佐竹実、モスクワ=桑本太】2021年のノーベル平和賞の授賞式が10日、ノルウェーの首都オスロで開かれた。受賞したロシアの独立系新聞編集長ドミトリー・ムラトフ氏とフィリピンの著名ジャーナリスト、マリア・レッサ氏はともに強権政治に対峙してきた実績が評価された。
対面での平和賞の授賞式は2年ぶり。20年は新型コロナウイルスの感染拡大を避けるためオンラインで実施した。
ムラトフ氏は1993年にロシアで独立系の新聞「ノーバヤ・ガゼータ」を発刊、95年から編集長を務める。プーチン政権に対する批判的な論調で知られ、米欧の民主主義とは距離を置く体制のなかで言論の自由や人権の擁護に尽力した。
同氏は9日の記者会見で「人々が民主主義を信じなくなれば独裁政治や紛争につながりかねない」と述べ、弾圧に屈しない姿勢を改めて示した。
フィリピンのオンラインメディア「ラップラー」の最高経営責任者(CEO)のレッサ氏は、薬物の取り締まりを容疑者の人権より優先するドゥテルテ政権を批判し続けてきた。当局が名誉毀損のほか、脱税などの容疑でレッサ氏を何度も摘発してきたが、レッサ氏は「報道の自由に対する不当な圧力だ」と反発してきた。
レッサ氏は8日、バイデン米大統領が開いた「民主主義サミット」の関連会議にオンラインで参加して「全てをコントロールするのは情報だ。ジャーナリストは(真偽を見極める)ゲートキーパー(門番)だ」と主張した。
様々な情報がインターネットにあふれる。フェイク(偽)ニュースだけでなく、投票の誘導や、他者への攻撃など悪意を含む内容も目立つ。
ムラトフ氏は11月、日本経済新聞に対し「同じ考えの人だけを信じ、それが真実であろうとなかろうと気にしない。行き詰まった時代だ」と嘆いた。フェイクニュースが世界で広がり、事実を報じる大切さがこれまでになく重要になっていると強調した。
ジャーナリストのノーベル平和賞受賞は第2次世界大戦後で初めて。ノーベル賞委員会のレイスアンデルセン委員長は10月、両氏を「民主主義と報道の自由が一段と厳しい状況に追い込まれている世界で、理想のために立ち上がったすべてのジャーナリストの代表だ」と評した。表現の自由は紛争回避にも「不可欠だ」と強調した。
国際ジャーナリスト連盟(IFJ、本部ベルギー)が3月にまとめた報告書によると、1990年以降に殺害された報道関係者は世界で計2600人を超える。ノーバヤ・ガゼータも、政権の汚職追及で知られたアンナ・ポリトコフスカヤ氏ら6人の記者が殺害された。フィリピンでも10月に記者が犠牲になった。

2022年のノーベル賞発表は10月3日の生理学・医学賞からスタート。4日に物理学賞、5日に化学賞、6日に文学賞、7日に平和賞、10日に経済学賞と続きました。