ロシア軍、ヘルソン撤退へ ウクライナは警戒崩さず

ロシアのショイグ国防相は9日、ロシアが一方的に「併合」を宣言したウクライナ南部ヘルソン州のドニエプル川西岸からの軍の撤退を命じた。西岸地域にはロシアが2月の侵攻開始以来、唯一占領した州都のヘルソンがあるが、攻勢を強めるウクライナ軍に奪還される見通しだ。ロシアは軍事的にも政治的にも大きな打撃を受ける。
ショイグ氏は9日、ヘルソン州の戦況についてウクライナへの軍事侵攻を統括するスロビキン司令官から報告を受けた。その上で「軍撤退に着手し、兵員や武器などを安全に川の向こう(東岸)に移動させるためすべての措置を講じるよう」命じた。両氏の発言の様子は、ロシア国営テレビで放送された。
スロビキン司令官はショイグ氏への報告で「きわめて簡単ではない決定だと理解している」と述べ、軍撤退は住民と軍部隊を守る最善の方法だと主張した。できるだけ早く撤退を完了するとも述べ、ドニエプル川東岸で守備体制を固める方針を示した。
ロシアは10月中旬、西岸のロシア占領地域から住民の避難を開始した。スロビキン司令官によると、11万5千人以上が東岸に避難した。親ロシア派が州都ヘルソンに置いていた行政府も東岸への移転を終えた。

ヘルソン州など南部では欧米の支援を受けたウクライナ軍の砲撃により、軍の補給路が大きな損害を受けていた。特にドニエプル川にかかる橋が破壊されたのが痛手となった。兵士や武器などの補給が難しくなったロシア軍が、西岸から早期に撤退するとの見方が強まっていた。
欧米の支援を受けるウクライナ軍は10月下旬、ヘルソン州西岸で多数の集落を奪還したと発表するなど、軍事攻勢を強めていた。9月中旬には東部ハリコフ州で占領されていた地域の大半の奪還に成功した。ヘルソン州のドニエプル川西岸全域も解放できれば、ハリコフ州奪還に続く大きな戦果となる。
ただ、ウクライナは慎重な姿勢を崩していない。ポドリャク大統領府長官顧問は9日、ロイター通信に「ウクライナの国旗がヘルソンの上にはためくまでは、ロシアの撤退に言及するのは意味がない」と語った。今後のロシア軍の撤退の動きを見極めたうえ、東岸やクリミア半島など南部の占領地域への攻勢を強めたい考えだ。
ロシアは今後、今秋に新たに招集した約30万人の動員兵も投入し、ドニエプル川東岸の守りを固める方針だ。西岸地域を奪還される失策を取り返すため、東部の戦線も立て直し、ドネツク、ルガンスク両州の全域の占領をめざすとみられる。
州都ヘルソンを含むドニエプル川西岸を失うロシアは、ウクライナ南部や中部での今後の軍事作戦が難しくなり、さらに後退を迫られる可能性がある。内政でも、今回の失策に対する強硬派や市民の批判が強まるとみられ、プーチン政権への逆風が強まるのは避けられない。
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