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エジプト高速鉄道計画始動 独シーメンスと5000億円規模

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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

【カイロ=久門武史】エジプトで5000億円規模の高速鉄道計画が動き出した。運輸省傘下のトンネル公社と独シーメンスの鉄道システム事業子会社などが9月、紅海と地中海を結ぶ全長660キロメートルの高速鉄道を建設する契約を結んだ。貨物列車も運行する計画で「陸のスエズ運河」をうたう新たな輸送ルートを目指す。

「鉄道のスエズ運河」に

「新行政首都や新都市を鉄道ネットワークに結びつけ、沿線のインフラを強化する」。エジプトのワジル運輸相は署名式で、同国初の高速鉄道に期待を示した。

紅海の港町アインソフナと地中海側のマルサマトルーフ、アレクサンドリアを結ぶ新線を整備する。シーメンスは「『鉄道のスエズ運河』のようなリンクをつくりだす」と説明し、紅海と地中海をつなぐ海運の大動脈スエズ運河になぞらえた。

高速鉄道は首都カイロの東約45キロメートルに建設中の新首都や、カイロ郊外で工業団地などがある新興の衛星都市「10月6日市」を経由する予定だ。総事業費は45億ドル(約5100億円)。このうちシーメンスの担当範囲は30億ドルとしている。エジプトの建設大手オラスコムなどが参加する。発表によると、鉄道利用客数は年間3000万人を見込んでいる。開業時期は明示していない。

ドイツ鉄道の車両ベース

旅客列車の車両はドイツ鉄道(DB)の高速鉄道車両をベースにしたシーメンスの「ヴェラロ」を導入する。同社は開業時の最高速度を明らかにしていないが、エジプトの政府系紙アハラムは時速250キロメートルだと伝えた。貨物列車にもシーメンスの電気機関車を使う計画だ。ロイター通信によると、2023年末までに車両の納入を始める。

政府は将来、全土で1800キロメートルの新たな鉄道ネットワークを築く青写真を描く。首都圏からナイル川沿いの南部アスワンを結ぶ路線などだ。

エジプトの1人当たり国内総生産(GDP)は約3600ドルと過去20年で倍増し、アジアの国ではインドネシアに近い。11年の民主化運動「アラブの春」後の混乱を経て強権的な統治のもと政情は安定し、海外からの直接投資額はアフリカ大陸で最大だ。人口は年2%のペースで膨らみ、20年に1億人を突破した。高速鉄道の需要も拡大していく可能性は高い。

投資不足で老朽化

エジプトの長距離鉄道は英国が支配を強めた19世紀に整備が進んだ。現在は国有だが投資が不足し、老朽化が進んでいる。首都カイロと第2の都市アレクサンドリアを結ぶ幹線でさえ電化されておらず、車両は古い。列車同士の衝突事故もたびたび起こっている。設備の近代化と安全の確保が喫緊の課題と言える。

政府は既存の鉄道を使いながら更新するより、外資の技術で高速鉄道の新線を整備する方が早いと判断したもようだ。電力供給の面でも環境は整っている。かつては停電が頻発していたが、発電所の増設で電気を近隣国に輸出するほどになったからだ。

現在の鉄道運賃は安い。カイロ―アレクサンドリア間の2等車は所要2時間半の最も速い特急で100エジプトポンド(約700円)ほどだ。低所得層への配慮の側面があるが、設備更新の原資の確保もおぼつかないまま陳腐化が一段と進む懸念があった。

収支の見通しに課題も
 今回着手する高速鉄道や貨物路線の運行形態や収支の見通しは不明だ。スエズ運河を通航する海上貨物の大半は、わざわざエジプトの港で鉄道に積み替える必要性に乏しい。国内の貨物輸送や輸出入に使えるとはいえ、コストに見合う付加価値がどれだけあるか読みづらい。政府は高速道路網を猛スピードで整備しており、トラック輸送との競合も予想される。
 旅客輸送では建設中の新首都への通勤などで課題となっている大量輸送の実現に一役買いそうだ。ただ、カイロ中心部は渋滞が激しいうえ再開発の余地が乏しく、高速鉄道駅へのアクセスが難題だ。運賃は既存の公共交通機関よりも割高になるとみられ、マイカーやバスでの移動に慣れた人々をどれだけ取り込めるかが焦点となる。
 一方、新たな鉄道の建設は経済のテコ入れにつながる。政府は1万5000人以上の雇用を創出し、海外の技術を吸収する好機だとみている。電車への移行で、温暖化ガスの排出抑制をアピールする手段にもなる。エジプトは次回の国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)の開催地に決まっている。

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