ロシア大統領、領空開放条約の脱退法案に署名
米ロ首脳会談に影 欧州安保に悪影響
【モスクワ=石川陽平】ロシア大統領府は7日、批准国の軍事施設を上空から相互に偵察できる領空開放(オープンスカイ)条約から脱退する法案にプーチン大統領が署名したと発表した。米ロの脱退により軍事分野で欧米とロシアの信頼維持に役立ってきた同条約が形骸化する。16日の米ロ首脳会談での戦略的安定を巡る協議にも影を落とす。
米国はロシアの違反を理由に2020年11月にオープンスカイ条約から正式に脱退した。ロシアも21年1月、一方的に不利な立場に置かれるとして条約から脱退する方針を表明した。ロシアは欧州の米同盟国が同条約に基づいてロシア上空から偵察して得た情報を、米国に渡すことを懸念している。
ロシアはこれまで米国が条約に戻れば脱退の方針を見直すと述べてきた。だが、5月27日に米国から条約に戻ることはないとの通知を受け、6月2日に上院で脱退法案が通過。ロシア大統領府は7日「ロシアの国家安全保障への脅威が生じた」として、先に脱退した米国を批判した。
オープンスカイ条約の批准国は非武装の航空機で相互に軍事施設や紛争地域の様子を監視できる。関係国が1992年に署名し、2002年に発効、30カ国以上が批准した。同条約には冷戦期に高まった米ロの緊張を和らげる目的があった。
オープンスカイ条約の中核をなしていた米ロの脱退により、同条約は形骸化する。16日に予定される米ロ首脳会談では主なテーマとして核軍縮など戦略的安定を話しあう見通しだが、両国間の不信感が浮き彫りになった形だ。ロシア政府高官は「米ロ首脳会談を前に良い雰囲気はつくらない」と指摘した。