トルコ、シリアと関係修復へ 選挙にらみ難民送還狙う

【イスタンブール=木寺もも子】トルコがシリアのアサド政権との関係修復に動いている。ロシアの仲介で国防相同士が会談し、エルドアン大統領は首脳会談への意欲も示す。トルコ国内では約400万人のシリア難民に対する不満が高まっており、選挙前に難民の帰還へ道筋を付けたい考えだ。
「トルコ、ロシアとシリアはモスクワで(対話の)プロセスを開始した」。エルドアン氏は5日、首都アンカラで行った演説でシリアとの関係改善に向けて動き始めたことを明らかにした。

昨年12月末にはモスクワでロシアを交えた3カ国の国防相同士が会談した。エルドアン氏によると、3カ国で近く外相会談を実施したうえ「その後は状況に応じて首脳同士で会う」といい、首脳会談も視野に入れる。いずれも実現すれば2011年に始まったシリア内戦で関係が断絶して以来初めてとなる。
民主化運動「アラブの春」をきっかけに始まったシリア内戦で、トルコは反体制派を支援し、国民を弾圧するアサド政権の打倒を目指してきた。トルコは戦闘や政権の弾圧から逃れる難民をイスラム教徒の同胞として受け入れ、その数は400万人に上るとされる。
だが、アサド政権はロシアやイランの支援を得て主要地域の支配を固め、政権の打倒は現実的でなくなった。一方で滞在が長期化する難民に対するトルコ国民の不満は募り、難民問題は6月までに大統領選と議会選を控えるエルドアン氏にとってアキレスけんとなっている。
「難民がいなくなった」。8日朝、トルコ最大野党、共和人民党(CHP)の広報担当者はぼうぜんとした。同党のクルチダルオール党首がイスタンブール郊外で難民の「送別会」を開く予定だったが、政府側が前夜に先回りして該当の難民数十人をシリアに出発させてしまったことが分かったという。
難民の受け入れは「虐げられたイスラム教徒の守護者」を自任するエルドアン氏が積極的に進めた。一方、野党はアサド政権と関係を修復して難民を帰すべきだと主張。以前から帰還希望者を南東部のシリア国境まで送り届けるなどの事業を続け、支持の拡大につなげてきた。
調査会社メトロポールが21年に行った世論調査では、8割以上の人が「難民は帰還すべきだ」と回答した。22年12月の同調査では59%がアサド政権との対話に賛成を示し、中でもエルドアン氏の与党・公正発展党(AKP)支持者の間では6割を超え、政権も難民に厳しい態度を取らざるを得なくなっている。
選挙前に難民問題を前進させたいエルドアン氏に対し、アサド政権側は慎重なもようだ。トルコは国境に近いシリア北部のクルド系武装勢力の掃討を目的として空爆や越境軍事作戦を繰り返し、シリア国内で支配域や影響圏を広げてきた。クルド系武装勢力はアサド政権とも緊張関係にあるが、アサド政権はトルコの攻撃が主権の侵害にあたるとして反発を示してきた。
アサド政権としてはトルコと協力すればクルド系勢力から支配地域を奪還できる可能性が高まる一方、トルコの影響力は排除したい思惑がある。条件を巡ってトルコと駆け引きをしているとみられる。
アサド政権には、化学兵器を使って自国民を虐殺したなどの疑いがある。米国は「残忍な独裁者アサドを復権させることになる」として、トルコとシリアの改善を支持しない考えを示した。