/

EU首脳、ガス価格抑制で一致 共通の資金調達模索

(更新)
think!多様な観点からニュースを考える

【プラハ=竹内康雄】欧州連合(EU)は7日の首脳会議で、高騰するエネルギー価格を抑制する必要性で一致した。ガス価格に上限を設けるなど、家計や企業への影響を緩和するための対策で月内にも合意したい考えだ。ドイツが単独で巨額の支援策を発表したことに反発が高まり、EUレベルで資金を調達する構想が浮上してきた。

EUのミシェル大統領は閉幕後の記者会見でエネルギー価格の高騰が家計に痛みを強いているとして、10月20~21日に開く次の首脳会議までに「必要な措置を検討したい」と語った。欧州委員会は近くガス価格に上限を設ける案を含め、具体策を提示する見通しだ。

ガス価格に上限を設けるのは、家計や企業が苦しむ電力料金の上昇に歯止めをかける狙いがあり、EU加盟国の半数以上が導入を求めている。だが制度設計は難しく、水面下での調整は難航している。

ガス価格を抑制すれば、消費が増える可能性がある。ロシアからの供給が絞り込まれるなか、欧州は需要期の冬を乗り切るため、ガスの節約を一段と強化する構え。価格上限の設定はこうした施策と矛盾するリスクがある。

制度の設計は様々な案があるが、例えば人為的に価格上限を設定すると、実際のガスの市場価格との差額を政府が補塡する必要があり、巨額の費用が必要だ。ドイツは単独でこれに取り組もうと総合対策を発表。最大2000億ユーロ(約28兆円)を投じる方針だ。

だがこの対策は他の加盟国の批判を受けている。イタリアのドラギ首相は「各国が共通の脅威に直面するなか、予算の余地によって分断を招いてはならない」と主張。ポーランドのモラウィエツキ首相は7日、「EUで最も豊かで経済力のある国が、危機を利用して自国の競争力を高めようとするのはフェアではない」と批判した。

EUも加盟国の格差を広げかねないと懸念を示している。フォンデアライエン欧州委員長は7日の記者会見で「単一市場を守り、断片化を避けねばならない」と述べた。あるEU高官は日本経済新聞に「ドイツは自国を優先し、EUのことを考えなくなってしまった」とぼやく。欧州委はドイツの対策がEUの補助金ルールに抵触していないか調査している。

EUのジェンティローニ欧州委員(経済担当)とブルトン欧州委員(域内市場担当)は複数の欧州紙へ寄稿し、EUレベルでの資金調達が必要と訴えた。新型コロナウイルス禍で企業の雇用を支援するために設けた「SURE」という仕組みを参考に、EUが資金を調達して加盟国に低利で融資する制度をエネルギー対策でも活用するよう提案した。

ドイツなどの財政健全国の恩恵でEUの格付けは高く、低利で資金調達できる。首脳会議でも共通の資金調達構想が議題に上り、フランスやイタリア、中・東欧諸国はこの構想を支持した。

もっともドイツやオランダなど財政規律を重視する国は、新たな債券の発行に慎重で、新型コロナの復興基金で使われていない融資枠の活用などを訴える。EUの財政統合が進み、債券の償還が難しくなる事態になれば、最終的に財政余力のある国がツケを払わされる可能性があるためだ。

景気後退のリスクに直面するEU内で、豊かな国とそうでない国の格差が広がれば、不協和音が拡大するのは確実だ。20年の復興基金をつくる際の議論のように、豊かな北部欧州と南欧などとの対立が再燃する可能性がある。

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

  • この投稿は現在非表示に設定されています

    (更新)
    (0/300)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン

権限不足のため、フォローできません