欧州で天然ガス高騰 ノルウェーのストで供給不安

【ロンドン=篠崎健太】欧州の天然ガス価格が夏場に異例の高騰をみせている。ノルウェーで5日、石油・ガス業界の労働組合が賃上げ要求のストライキを開始し、供給減への懸念から卸電力価格などにも上昇圧力がかかった。さらに大規模なストが週末にかけて計画されていたが、ノルウェー政府が急きょ介入に動いて中止が決まった。

金融情報会社リフィニティブによると、欧州の天然ガス指標価格となるオランダTTFは5日、一時前日比9%高い1メガワット時あたり176ユーロをつけた。翌月渡しの取引としては3月9日以来ほぼ4カ月ぶりの高値水準になった。直近2日間の上昇率は最大で約2割に達した。
買いを誘ったのはノルウェー発の供給不安だった。
同国のエネルギー最大手エクイノールは5日、北海の沖合で運営する3つの油田の操業休止に着手した。賃上げを求める石油・ガス業界労組と経営側の交渉が決裂したためだ。3油田の石油・ガス総生産量は日量8万9000バレル(石油換算ベース)で、そのうち天然ガスは日量2万7500バレル相当を占める。
ストは当初、他の油田にも広がる計画だった。ノルウェー石油ガス協会によると減産規模は9日に石油が日量34万1000バレル、天然ガスは日量111万7000バレルへそれぞれ膨らむ恐れがあった。ノルウェーの天然ガス輸出量の56%が失われる計算で、同協会は「秋冬を前にガス貯蔵の積み上げを依存している国々に重大な問題をもたらす」と警告していた。

事態を重く見たノルウェー政府は労使の仲裁に動き、5日夜(日本時間6日未明)、従業員ができるだけ早く職場に戻ることで合意した。ペーシェン労働相は「欧州全体に影響を及ぼす可能性があり介入せざるを得なかった」とコメントした。
ノルウェーは欧州連合(EU)にとって、天然ガス輸入先としてロシアに次いで2番目に大きい。EU統計局によると2021年は輸入額全体の25%を占めた。EUはウクライナ侵攻を続けるロシアからの調達削減を急いでおり、有力な供給源であるノルウェーで減産が長引けば大きな影響が出かねなかった。
TTF翌月物の価格は1年前の約5倍と、需要期でない夏場としては異例の高値で取引されている。ロシアは主要パイプライン「ノルドストリーム」を通じたドイツへのガス供給量を6月半ばから6割減らした。国営ガスプロムは修繕作業の影響だと説明しているが、これまで通貨ルーブルでの支払いに応じない企業への供給を止めるなど、欧州の制裁に揺さぶりをかけ続けている。
米金融大手ゴールドマン・サックスは4日付で欧州天然ガスの相場見通しを大幅に引き上げた。7~9月期のTTFの予想平均価格は従来の104ユーロから153ユーロに変更した。ノルドストリーム経由の供給量回復が想定より遅れる可能性をより強く織り込んだ。供給量の停滞が長引く最悪のケースでは200ユーロを上回る恐れもあるとみている。
ドイツ政府は5日、調達コストの高騰で苦境に陥ったエネルギー企業への公的資金注入を可能にするため、エネルギー安全保障法の改正に着手することを決めた。エネルギー企業の破綻で供給に混乱が生じないよう万全を期す狙いがある。業績が悪化している独大手ユニパーへの救済策が検討されている。
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