今年のエジプト観光、周年記念の当たり年

【カイロ=久門武史】エジプトが新型コロナウイルス関連の入国制限を解除し、観光客誘致を急いでいる。2022年後半は黄金のマスクで知られる古代のツタンカーメン王の墓が発見されて100年を迎えるなど、外国人を大々的に呼び込む節目が目白押し。国際会議やイベントも追い風に、観光業の復活に弾みをつける。
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エジプト政府は6月、新型コロナに関わる入国制限を撤廃すると発表した。ワクチン接種証明書か陰性証明書を提示する義務がなくなり、客足の回復が一段と期待できるようになった。
ツタンカーメンの墓発見から100年、ロゼッタ石解読200年
「西欧のお客さんが増えてきた。アジアからはまだまだだが、収入が戻り始めてありがたい」。首都カイロ近郊のギザのピラミッド前で土産物店を営むアハマドさん(29)は一息ついた様子だ。
観光・考古省は6月、アスワンやルクソールなど上エジプトにある遺跡や博物館の入場料を8月まで半額に割り引くと発表した。カイロでは外国人客が目に見えて増えてきたが、地方への誘致も加速させる狙いだ。
今年は外国人の関心をひき付ける節目が相次ぎ、エジプトは演出に力を入れる。9月には古代エジプトのヒエログリフ(象形文字)が刻まれた石碑ロゼッタストーンをフランスの言語学者ジャン・フランソワ・シャンポリオンが解読してから200年を迎える。政府は「古代エジプトの言語と文化が研究者に開かれた」と記念し9月末にイベントを計画している。

11月は首都のあったルクソールでツタンカーメンの墓が発見されて100年になる。発掘した考古学者ハワード・カーターの母国、英国で関連美術品の巡回展を開くなど、関心を集める仕掛けを講じてきた。
建設中の「大エジプト博物館」も観光の目玉に
ツタンカーメンの黄金マスクはカイロ中心部の博物館から、日本も支援してギザに建設中の「大エジプト博物館」に移される予定だ。開館日は発表されていないものの、新たな観光の目玉になるのは確実だ。
11月は6~18日に紅海沿岸のリゾート地シャルムエルシェイクで第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)が開かれる。各国の代表団や環境団体、メディアが集まり、エジプトに脚光が当たる。ホテルなど観光業への波及効果は大きい。
観光はエジプトの外貨獲得の柱だ。世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)によると、エジプトの旅行・観光産業は18年に国内総生産(GDP)の12%を占め、250万人弱の雇用を生んだ。新型コロナ禍の打撃は大きく、現地報道によると19年に1300万人強だった観光客数は20年に300万人台に激減した。
往来の回復を見越し、エジプト政府は情報発信を強化している。ルクソールでは昨年11月、カルナック神殿とルクソール神殿を結ぶ約2.7キロの参道の修復工事を終え、古代を再現したというパレードを実施した。同4月にはカイロでファラオらのミイラ22体をきらびやかに移送する様子を世界の報道陣に公開した。その映像はエジプト航空の機内で繰り返し流れている。
観光需要の回復に影を落とすのが、ロシアによるウクライナ侵攻だ。暖かいエジプトのビーチは人気の旅行先だが、戦闘が長期化するほど両国からの需要の低迷は長引く。