イラン、20%ウラン濃縮に着手
国営メディア報道 イラン核合意修復に打撃
【ドバイ=岐部秀光】イランは4日、中部フォルドゥの核施設でウランの濃縮度を20%に引き上げる作業を始めたと発表した。2015年のイラン核合意成立前の水準に濃縮レベルが戻ることを意味する。バイデン次期米大統領が模索する核合意修復の交渉は一段と難しくなりそうだ。
- 【関連記事】イラン、韓国船籍の石油タンカー拿捕
イランのメヘル通信によると政府報道官はフォルドゥの地下にある遠心分離機に濃縮度引き上げのためのガスを注入したと明らかにした。イランは1日までに国際原子力機関(IAEA)に濃縮度を引き上げる計画を伝えていた。
イラン強硬派は首都テヘラン郊外で20年11月、著名な核科学者が、遠隔操作によって何者かに殺害されたことに反発。強硬派主導の議会が12月、穏健派のロウハニ大統領の反対を押し切る形で核活動の拡大を政府に要求する法律を成立させた。
濃縮ウランの製造では濃縮度が幾何級数的に高まる。「高濃縮ウラン」に分類される20%以上まで濃縮度が高まると、兵器級である90%に至るプロセスの9割を終える。イランは核合意で定められた上限の3.67%を上回る4.5%までの濃縮度を高めていた。
18年に核合意から一方的に離脱した米トランプ政権が復活させた強力な金融・原油制裁でイラン経済は大きな打撃を受けた。イランは制裁に対抗し、核合意の義務から段階的な逸脱を進めてきた。
イラン核合意は制裁解除の代わりにイランの核関連活動を大幅に制限する内容だ。主眼はイランが万一、核武装をしようと考えた場合でも、実際に核爆弾を手にするまでの時間を確保し、外交による問題解決の余地を残すことにあった。イランによる相次ぐ義務の逸脱でこの効果は骨抜きになりつつある。
バイデン氏は核合意への復帰をめざしているが、イランが合意の義務をきちんと果たすことが前提であるとの立場を示唆している。
イランと対立するイスラエルのネタニヤフ首相は4日、今回の濃縮度引き上げについて「軍事的な核計画を実現させる以外に説明できない。イスラエルはイランの核兵器製造を決して許さない」と批判した。イランは核関連の活動について「平和利用が目的」と主張している。
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
この投稿は現在非表示に設定されています
(更新)