ロシア産原油に制裁発動 供給懸念で先物一時上昇

欧州連合(EU)によるロシア産原油の禁輸と、輸入価格に上限を設ける主要7カ国(G7)の制裁が5日、発動した。一部油種の流通に影響が出るとの警戒感がくすぶり、同日の原油価格は一時2%上昇した。石油輸出国機構(OPEC)に非加盟のロシアなどを加えた「OPECプラス」は4日、需給バランスへの影響を見極めるとして現行の減産を据え置く「待ちの一手」をとった。
日本時間5日、欧州の指標である北海ブレント原油先物は一時、前週末比2.4%高の1バレル87ドル台後半まで上昇した。米指標のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物も一時81ドル台後半と同2.3%高となった。
EUはウクライナ侵攻を受けた対ロシア制裁の一環として、ロシア産原油の禁輸措置を5日に発動した。パイプラインで調達する分を除き、輸入をやめる。
もう一つの制裁が、G7がEUの禁輸発効と同時に導入したロシア産原油の価格上限制度だ。新興国や途上国などを想定し、一定の価格を上回る取引の場合は、海上輸送に必要な保険契約をできなくする。一方、価格上限を下回れば流通を認める。ロシアの石油収入に歯止めをかけると同時に、禁輸に伴って世界に流れる原油の供給量が大きく減らないようにする狙いがある。
国際エネルギー機関(IEA)によると、ロシアの原油輸出量(10月時点、日量)は490万バレルだ。欧州のロシア産原油の輸入量は150万バレル。うちパイプライン経由で流入する70万バレルを除く約80万バレルが禁輸の対象となる。EU向けに出ていたロシア産の数量が他の地域に回らず、その分減産になると、世界の原油需給を引き締める要因になる。
EUとG7が合意した価格上限水準は「1バレル60ドル」。金融情報会社リフィニティブによると、欧州向けのロシア産原油の代表的な油種「ウラル」はロッテルダム渡しで現在1バレル59ドル前後と、上限価格の60ドルを下回る。現状の価格のままなら供給への影響は少ないとみられる。

需給引き締まりの可能性がささやかれるのが、アジア向けに輸出され、主に中国などが購入する油種「エスポ」だ。1バレル79ドル台と上限を上回り、価格上限制度のもとでは取引できなくなる恐れがある。金融情報会社リフィニティブの海上輸送データによると、極東のコズミノ港からのエスポの出荷量は10~11月の直近2カ月平均で日量約73万バレル。ほとんど全量が中国向けだ。
中国は価格上限の枠組みへの参加をこれまで明言していない。中国外務省の毛寧副報道局長は5日の記者会見で「中国は(ロシアと)相互互恵の精神に基づいてエネルギー協力を展開している」と述べた。ロシア産に価格上限を設けるG7の措置とは距離を置く考えを示した。
ただ「タンカーへの海上保険や再保険は主に欧米金融機関が引き受けている。制裁に加わっていなくとも影響を受ける可能性がある」(エネルギー・金属鉱物資源機構=JOGMEC=の野神隆之首席エコノミスト)との指摘もある。
OPECプラスも4日、11月に始めた日量200万バレルの協調減産を維持した。声明ではG7の新たな対ロ制裁には直接触れなかったが、全体の需給にどう響くかが読み切れないのが、模様眺めに徹した背景にある。
「上限価格を設定する国には原油を輸出しない」。ロシアのノワク副首相は4日こう述べ、減産も辞さない強硬姿勢を示した。不足感が急に強まればサウジアラビアなどOPECに増産を求める声が消費国から強まりかねない。
OPECもロシアの供給に「相当な不確実性」があると11月に認めた。見通しがきかない以上は、いま生産目標を変えて価格変動を増幅する必要はない。さらに対ロ制裁を助けるような増産を仮に決めれば、ロシアとの間に亀裂をうむ。政治的にも現実的ではない。
むしろOPECが気をもむのは、中国のゼロコロナ政策や世界景気減速による原油需要の減少だ。追加減産は相場を下支えし産油国の国庫を潤す。イタリアの金融大手ウニクレディトのエドアルド・カンパネラ氏は「ロシアはOPECプラス枠内の影響力をテコに追加減産を主張する可能性がある」と指摘した。
だが追加減産を制裁発動の直前に決めれば、米欧の怒りを買う。G7とEUが足並みをそろえてロシアの原油収入を細らせつつ高値を避けようとする努力に水を差すからだ。
据え置きは、米欧とロシアの双方を刺激せずに済む。今回OPECプラスは対面で予定していた閣僚級会合をオンラインに切り替えた。生産目標に変更がないことを市場に織り込ませ、価格上限発動で注目を集めるのをやり過ごそうとした可能性がある。
(カイロ=久門武史、コモディティーエディター 浜美佐)
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