トルコのインフレ加速 12月は36%、19年ぶり高水準

【イスタンブール=木寺もも子】トルコ統計局が3日発表した2021年12月の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比36%だった。単月では19年ぶりの高さで、前月の21%から跳ね上がった。通貨リラ安による輸出増がけん引して国内総生産(GDP)は膨らむが、賃金上昇が物価高に追いつかず、市民生活は圧迫されている。
CPI上昇率は21年12月が02年9月(37%)以来の高水準だった。エルドアン大統領の主導で進めた金利引き下げでリラの対ドル相場は21年の1年間で4割超下落した。エネルギー関連などの輸入価格が上がり、国内物価の全体を押し上げた。
12月の卸売物価指数(PPI)の上昇率は前年同月比80%で、これから消費者物価に反映される可能性がある。
22年1月には電気料金が50~125%上がり、ガスや酒類などの値上げも発表された。

市民が実感するインフレ率はさらに高く、メトロポール社の21年12月の世論調査では回答者の6割強が「100%以上だ」と回答した。大学教授らでつくるENAグループは独自に調査した12月のCPI上昇率が前年同月比83%だったと指摘した。
市民はインフレの加速を見越し、トイレットペーパーや乳製品のまとめ買いにはしっている。最大都市イスタンブールでは12月、燃料費の高騰を理由として、海峡を渡る公共交通機関のフェリーの一部路線が運休した。
一方、通貨安を追い風に輸出は好調だ。エルドアン氏は3日、21年の輸出額が前年比33%増の2250億ドル(約26兆円)に達し、過去最高になったと自ら発表した。製造業などがけん引し、21年通年の実質成長率は10%前後になると見込んでいる。
インフレに対する国民の不満を解消するため、エルドアン政権は利上げ以外の方法でリラ安を食い止めようとしている。3日には輸出事業者に対し、獲得した外貨の25%をリラに替えるよう義務づけると発表した。インフレで実質的な価値が目減りした分を国が補填する新たなリラ建て国債の発行も検討している。
21年12月には外貨換算による損失分を国が補塡するリラ建て定期預金の仕組みを導入し、国営銀行を通じた大規模なリラ買い介入を実施した。
エルドアン氏は経済学の理論とは逆に「金利がインフレを引き起こす」と主張し、高金利に強く反対する。同氏が掲げる「新しい経済成長モデル」は低金利による投資や輸出の拡大に基づく。実践すれば貿易収支の赤字が縮小し、観光収入の増加などが経常収支の黒字につながり、長期での成長を可能にすると説明する。
この考えを受け、トルコの中央銀行は21年9~12月、主要政策金利を合わせて5%引き下げた。現在は年14%で、なお引き下げる可能性はある。インフレ率がこれを大きく上回るため、実質金利はマイナスになる。世界各国の中銀がインフレ対策として金融引き締めにシフトするなか、トルコの利下げ姿勢は目立つ。