石油製品にもロシア制裁、5日発動 軽油は100ドル上限

軽油などロシア産石油製品の輸入価格に上限を設ける主要7カ国(G7)と欧州連合(EU)、オーストラリアの制裁が5日に発動される。G7などが3日、合意に達したと発表した。EUは石油製品の輸入禁止に踏み切り、G7では上限価格を超えた取引を制限する。ロシアへの制裁を拡大し、ウクライナ侵攻を続けるロシアの資金源を抑え込む狙いだ。
2022年12月の原油の価格上限設定に続く措置。軽油やガソリンなどは1バレル100ドル(1万3000円)、その他の燃料は45ドルとする。3月に上限価格が適切かどうか見直す。
上限を超える価格での取引には、欧米の金融機関に保険の提供を禁じる。石油タンカーへの海上保険や再保険は主に欧米金融機関が引き受けているため、制裁に加わらない国も取引が難しくなる。
国際エネルギー機関(IEA)によると、22年12月のロシアの輸出額は原油が72億ドル、石油製品が54億ドルと推計される。ロシアにとって原油と並ぶ収入源である石油製品にも網を広げ、制裁の効果を高める狙いがある。
もっとも、価格上限を設定するのは、新興国などがロシア産の石油製品を入手し続けられるようにして、経済や市場の混乱を避けるためでもある。EUが禁輸によってロシアの石油製品を閉め出しても、新興国などが上限以下で石油製品の購入を増やせば、制裁の効果は限られてしまう。
市場推計では、ロシア産の軽油は1バレル90ドル程度で欧州の指標価格より2割ほど割安に取引されている。今回設けられた100ドルの上限より低い状況だ。
制裁の影響はロシアだけでなく、禁輸に踏み切るEU自体にも跳ね返ってくる。英BPによると、21年時点でロシア産石油製品は世界シェア(輸送量ベース)の11%を占める。輸出先として最も多いのが欧州で、ロシア産石油製品の54%を輸入してきた。欧州の輸入相手国でみても、ロシアは4割を占める。
ロシアは制裁発動を受け、欧州からアフリカやインド、中国に輸出先を切り替えていくとみられる。ロシアからインドへの石油製品の出荷は22年12月に過去最高になった。
一方で、欧州は中東やインドなどロシア以外の調達先を確保する必要がある。米ブルームバーグ通信によると、クウェートは23年の欧州への軽油輸出を5倍に増やす見通し。中国は1月、石油製品輸出枠の第1次割り当てを前年同期比5割増やした。ロシア産の原油や石油製品を安値で購入する中国やインドから欧州への輸出が増えるという事態もあり得る。
さらに制裁措置に絡んで、ロシアは減産の可能性を示唆している。ロシアの供給が減れば、世界的に需給が逼迫する可能性がある。IEAは1月のリポートで「製品市場、特に軽油は需要の伸びが回復してきたときに最も危険にさらされる」と指摘した。欧州自動車工業会(ACEA)によると、21年の新車販売でトラックは95.8%がディーゼル車で、軽油の値上がりは輸送コストなどに直結する。
原油の価格上限は実勢価格との幅が大きかったが、軽油などは上限と実勢の開きが小さい。価格上限に抵触することを敬遠し、保険や輸送サービスの提供を控える動きが出れば、供給網に混乱が生じかねない。エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の野神隆之氏は「保険・輸送の混乱が生じた場合は収束まで3〜4カ月程度かかる可能性もある」とみる。
2月は米国で製油所がメンテナンスの時期に入る。欧州ではフランスで年金制度改革案に対するストライキがあり製油所にも影響が及んでいる。需給逼迫懸念が高まっており、ロシアへの制裁でさらに混乱が生じれば石油製品や原油の相場が上昇する可能性も否めない。
(ブリュッセル=竹内康雄、荒川信一)
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