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米、対中国シフト急ぐ フィリピンと軍事協定の存続決定

(更新)
オースティン米国防長官(左)はフィリピンを米軍の拠点として重視する(29日、マニラ)=ロイター

【ワシントン=中村亮、マニラ=志賀優一】オースティン米国防長官は30日までの東南アジア歴訪で地域への関与継続を訴え、フィリピンと軍事協定の存続で合意した。対中国シフトを加速させる米軍は有事の際に西太平洋で部隊を分散させて中国軍に対処する戦略を描く。トランプ前米大統領が軽視した東南アジアの信頼回復を急ぐ。

「同盟関係を再び活性化させることが私の最大の課題だった」。オースティン氏は30日、フィリピンの首都マニラで開いた記者会見で語った。同氏はバイデン政権の主要閣僚として東南アジアを初めて訪れた。フィリピンやベトナムは中国と南シナ海の領有権を争い、後ろ盾として米国の長期的な関与を望んでいる。

米ホワイトハウスは30日、ハリス副大統領が8月にシンガポールとベトナムを訪問すると発表した。声明で「インド太平洋の重要な2カ国と関係や経済協力を強化する」と強調した。世界で新型コロナが再拡大しているが、ハリス氏は対面形式の訪問で米国の東南アジアへの関与を強くアピールする。

オースティン氏の歴訪の最大の成果はフィリピンと結ぶ「訪問軍地位協定(VFA)」の存続で合意したことだ。VFAは米軍のフィリピン国内での法的地位を定め、消滅すると米軍がフィリピンで活動できなくなる恐れがあった。米国と距離をとるドゥテルテ大統領は2020年2月、VFA破棄を表明したが実行には移していなかった。オースティン氏は29日、ドゥテルテ氏と会談してVFA存続を促したとみられる。

VFA存続は米軍の対中国戦略にも追い風だ。米軍はインド太平洋地域で冷戦後に進めた少数の軍事基地に部隊を集中させる方針を転換し、分散させる戦略を推進している。中国軍のミサイルの精度や飛距離が向上し、少数の基地に戦力を集めると中国の攻撃を受けて戦力が一気に下がるリスクが大きいからだ。

米戦略国際問題研究所(CSIS)のグレゴリー・ポーリング上級研究員はフィリピンが米軍の有力な分散先とみている。フィリピンは米国と同盟関係にあり、南シナ海に面し、台湾海峡にも近いからだ。VFA存続をきっかけにバイデン政権が軍事基地へのアクセス拡大や軍事物資の貯蔵といった協力をフィリピンから得られるかどうかが今後の焦点になる。

バイデン政権は秋までに米軍の世界展開の見直しを完了する。中東でのテロとの戦いから対中国へのシフトを打ち出す見通しだ。アフガニスタンからの米軍撤収を8月末に完了し、中東へ配置してきたミサイル防衛部隊を今夏に削減することを決めている。国防総省はミサイル防衛部隊の一部を他の地域に振り向けると説明し、インド太平洋に展開する可能性がある。

米軍のアジアシフトは11隻ある空母の展開先を見ても明らかだ。米海軍協会によると、2021年の太平洋への展開は7月上旬までにのべ197日間。中東や大西洋などを合わせた全体の5割を超えた。トランプ前政権はイランとの対立激化を受けて中東での抑止力強化を重視し、19年には空母の展開先も中東が最も多くなり、アジアが手薄になっていた。

バイデン政権は米軍が中国対応に使う予算の拡充も目指す。21年1月に創設した基金「太平洋抑止イニシアチブ」について、バイデン政権は22会計年度(21年10月~22年9月)に51億ドルを要求した。14年のロシアによるウクライナ侵攻を受けて欧州防衛強化を目的に創設した欧州抑止イニシアチブの予算要求額(37億ドル)を上回った。

もっとも東南アジア各国がもろ手を挙げて米国に接近するわけではない。ドゥテルテ氏は29日、オースティン氏が表敬訪問する直前まで中国が資金援助したマニラ首都圏の橋の開通に伴う式典に参加。26日には任期最後の施政方針演説で「米国はフィリピンが攻撃を受ければ防衛するという。一方で他国との国境に関する紛争には関与しないとも声明を出している」と語り、不信感をあわらにした。

念頭にあるのが、12年に起きた南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)をめぐる中国との対立だ。米国は仲介役を務め、中国とフィリピンの公船などがスカボロー礁から同時に離れることで合意したとされたが中国船は離れず、スカボロー礁の実効支配が中国に移った。ドゥテルテ氏は米国との相互防衛条約を結んでいても「領有権」を守れないのであれば同盟関係の意義は薄いと繰り返し不満を漏らしてきた。

ランド研究所のデレク・グロスマン上級防衛アナリストは、米国が南シナ海で防衛対象とするのはフィリピン政府の資産に限られ、民間漁船などが含まれないことにフィリピンは不満を持っていると指摘する。

ベトナムは中国に不信感を募らせながらも中国が大きな貿易相手でもあり、米中のどちらにも肩入れしない方針を堅持している。中国は新型コロナワクチンの供給もからめて東南アジア各国と米国の協力拡大を抑えようとしている。

アメリカン・エンタープライズ研究所のエリック・セイヤー氏は「中国による南シナ海の軍事拠点化を防ぐチャンスは15年ごろに消滅した。中国が後戻りすることはない」と語る。バイデン政権がアジア関与を鮮明にしても中国が南シナ海の実効支配をやめる可能性は低いとみる。

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