米創薬ベンチャー、政府に天然痘薬を供給 サル痘対策か

【ニューヨーク=西邨紘子】米創薬スタートアップのキメリックスは29日、米政府に今後10年間にわたって天然痘向け抗ウイルス薬を供給する契約を結んだと発表した。最大6億8000万ドル(約945億円)で延べ170万回分の経口薬を提供する。サル痘の流行が世界的に広がるなか、欧州や日本では感染対策に天然痘向けのワクチンや治療薬を転用するケースが相次ぐ。キメリックスと米政府による今回の契約も、サル痘の感染拡大に備える狙いがありそうだ。
まず1億1500万ドルで、31万9000回分の天然痘向け抗ウイルス薬「TEMBEXA(一般名ブリンシドフォビル)」を供給する。契約によると、米政府が5億5100万ドルで最大170万回分まで追加購入できるオプションも含む。
天然痘はサル痘と感染の仕組みや症状が似ている。サル痘の詳しい発症メカニズムや起源は分かっていないが、欧州や日本では既存の天然痘ワクチンなどを活用して感染抑止に生かす例が増えている。
米当局も22年に入ってサル痘対策の一環として、米創薬企業のシガ・テクノロジーズが開発した天然痘向け治療薬の適応外使用を認めた。同治療薬は欧州でもサル痘、牛痘への使用拡大が認可されている。
世界保健機関(WHO)は7月にサル痘を「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」にあたると宣言した。米疾病対策センター(CDC)によると、サル痘は8月22日時点で世界に約4万8千人、米国では1万7000人にまで感染者が増えている。米国でも一段の流行拡大に警戒感が広がっている。
米当局は現時点でブリンシドフォビルのサル痘治療への使用を認めていないが、必要に応じて認可を検討する方針だ。6月にはカナダ政府もキメリックスと最大2530万ドルの供給契約を結んでおり、感染拡大に備える各国の囲い込みが始まっている。
キメリックスは米保健福祉省(HHS)傘下の生物医学先端研究開発局(BARDA)の支援を受け、バイオテロ対策として天然痘治療薬を実用化した。ブリンシドフォビルは日本でも21年に天然痘薬として承認を受けた。同治療薬については、シンバイオ製薬が天然痘以外の病気に使う場合の独占開発・製造・販売権を取得している。
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