トランプ氏、支持者の武装を事前把握 議会占拠事件巡り

【ワシントン=中村亮】米国のトランプ前大統領が2021年1月の議会占拠事件で、演説会場に集まった支持者の一部が武装していたと事前に把握していたことが明らかになった。議会は20年の大統領選をめぐる議会手続きを妨害するトランプ氏の意図や違法性の認識について調査を急ぐ。
事件に関する下院特別委員会の緊急公聴会が28日、開かれた。トランプ政権で大統領首席補佐官を務めたマーク・メドウズ氏の元側近キャシディ・ハチンソン氏が証言した。
議会占拠は、トランプ氏がホワイトハウス近くの広場で演説をした直後に起きた。特別委員会に参加するリズ・チェイニー下院議員などはこれまでの調査を踏まえ、演説会場や周辺に集まった支持者が催涙スプレーやナイフ、拳銃などを所持していたと指摘した。持ち物検査を拒んだ支持者は会場の近くに集まり、やや離れた位置から演説を聞いていたという。
演説に関連し、ハチンソン氏はトランプ氏が支持者が武装していることを知っていたと主張した。トランプ氏は「支持者が武器を持っていても構わない。支持者は私を傷つけない。警備員をどかして私の支持者を入れればここから議会に行進できる」という趣旨の話をしていたという。
トランプ氏は演説で20年の大統領選についてバイデン氏の勝利を認めなかった。議会でバイデン氏を次期大統領へ選出する手続きが進むなかでトランプ氏は「議会議事堂へ向かおう」などと訴えた。支持者の武装を把握したうえで議会に向かうよう呼びかけていれば暴動に発展する可能性が高いと認識していた公算が大きい。
焦点は、トランプ氏が支持者を議会に向かうよう求めた意図や、議会手続きの妨害が連邦法違反に該当するとの認識があったかどうかだ。違法性の認識などを詳細に証明できれば起訴の可能性が高まるとされるが、ハードルも高い。
トランプ氏と、襲撃事件を起こした支持者の直接的なつながりを立証できれば、トランプ氏は議会襲撃を扇動した罪を問われる可能性も指摘されている。
起訴の権限は特別委員会ではなく、司法省が持つ。特別委員会は調査をさらに進めて、司法省に対し、トランプ氏の起訴につながる材料を提供していく方針とみられる。
28日のハチンソン氏の証言からは他にも事件前後のホワイトハウスの様子が明らかになった。
トランプ氏は演説直後に支持者とともに議会へ向かう極秘計画があった。ハチンソン氏が周辺から聞いた話によると、議会周辺では支持者による議会への侵入が始まりつつあり、トランプ氏は大統領専用車に乗り込むと議会訪問の中止を告げられた。トランプ氏は激怒して「俺は大統領だぞ、いますぐ議会へ行け」と訴えて、ハンドルをつかもうとするなど大統領警護隊(シークレットサービス)ともみ合いになった。
議会を襲撃したトランプ氏の支持者の一部は、当時のペンス副大統領を絞首刑にすべきだと訴えた。ペンス氏はバイデン氏の大統領選出を決める議会手続きの議事進行役を担っていた。トランプ氏はペンス氏に大統領選の結果を覆すよう促していたとされるが、ペンス氏は従わなかった。
メドウズ氏は早期に占拠事件を収拾するための対応をすべきだと、周囲から進言を受けていたが真剣に取り合わなかったようだ。メドウズ氏は「ペンス氏には絞首刑がふさわしいとトランプ氏は思っている。支持者が悪いことをしているとトランプ氏は考えていない」との見方を示したという。
特別委員会の調査は与党・民主党が主導しており、11月の中間選挙で優位に立つ思惑もある。共和党ではトランプ氏の影響力が根強く、中間選挙に向けた共和党の予備選ではトランプ氏が支持した候補の多くが勝利している。トランプ氏による違法行為の疑惑が深まるほど、トランプ氏に近い共和党候補に打撃になるとの見方が出ている。
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