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ウイスキーで脱暗黒時代 シカゴの蒸留所「コーヴァル」

酒紀行海外編

アル・カポネで有名な米中西部の都市シカゴに、禁酒法時代(1920~33年)が終わって以降、初めて登場した蒸留所「Koval(コーヴァル)」がある。ユダヤ人の言葉イディッシュ語で先駆者という意味だ。その名の通り、2008年に創業して以来、斬新な試みで米最大級のクラフトウイスキー蒸留所に成長した。前シカゴ市長のラーム・エマニュエル駐日米国大使の自宅に近く、大使が贈答に使う品としても知られる。

元大学教授と外交官 夫婦で創業

市内の住宅街にある蒸留所を訪ねると、共同創業者のソナト・バーネカー社長(48)が柔らかな笑顔で迎えてくれた。モデル業の傍ら英オックスフォード大とロンドン大で歴史などを学び、ドイツと米国で大学教授を10年間務めた経歴を持つ。

首都ワシントンDCに住んでいた時に、駐米オーストリア大使館の副報道官だった夫ロバートさんと出会った。実家がオーストリアで3代続く蒸留所を経営するロバートさんはウイスキー造りに精通していた。

折しも米国では地ビールの流行を追い風に、小規模蒸留所が生み出すクラフトウイスキーのブームが始まりつつあった。これを商機とみたソナトさんは「自営なら子供や夫と過ごす時間が増える」と、生まれ育ったシカゴで蒸留所の立ち上げを決めた。

「穀物からボトルまで」一貫生産

まず着手したのは、1930年代の成立当時そのままのイリノイ州法を改正することだった。大手蒸留所を対象にした内容で、小規模な蒸留所の収入源になる店舗とバーの併設や蒸留所ツアーは許可されず、事業ライセンス費用も高い。「時代遅れの法律が起業を妨げている」とロビー活動を展開して法改正に成功。同州のクラフト蒸留所ブームの起爆剤となった。

ウイスキー造りのモットーは「穀物からボトルまで」。製造の全工程を一貫して自所内で行う。最高のウイスキー造りは原料からと、穀倉地帯という地の利を生かし、近隣州のオーガニック農家と契約して良質の穀物を調達。水はミシガン湖、熟成に使うたるはミネソタ州製と中西部の風土を大切にする。

穀物が発酵する甘い香が漂う蒸留所に入ると、壁に設置された大きなモニターが目に入る。「オーストリアの伝統的な製造技術にハイテクを組み合わせる工夫なの」とソナトさん。ロバートさんがドイツのメーカーと組み開発したソフトウエアを蒸留器に搭載し、温度変化など異常があればアラームが鳴る。職人たちは所内のモニターやスマートフォンを通じて品質を管理できる仕組みだ。

一番人気は甘い香りのバーボン

蒸留器から抽出される液体は最初に出る「ヘッド」、中間部分の「ハート」、そして最後の「テール」に分かれる。でも「たる詰めするのは(肉で言えば)ヒレのようなハートの中でも純粋な部分だけ」(ソナトさん)。たるは一度しか使わない「シングル・バレル」方式で、各ボトルのラベルにたる番号を記載し製造の足跡がたどれる。

業界関係者を驚かせたのは、米国初のミレット(キビ)だけでつくったウイスキーだ。労力がかかり困難とされた単一種の穀物だけを使う製造法に挑戦し、ライ麦100%のウイスキーも開発。先駆者として高い評価を得ている。

意外にも、コーヴァルの一番の売れ筋はバーボンだ。ケンタッキー州の名産として有名だが、材料の51%以上がトウモロコシで、内側を焦がしたオーク材のたるで熟成するなどの条件を満たせば米国のどこで造ってもバーボンと呼ばれる。

バーボンはトウモロコシにキビを混ぜ個性を出した。まろやかな甘みとバニラのようなフレーバーが特徴だ。米国のウイスキー品評会「インターナショナル・ウイスキー・コンペティション」の金賞をはじめ、日本や欧州のコンペでも受賞している。

増産を続け、蒸留所の敷地は創業時の10倍以上に広がった。日本など55カ国の販売網に今年、インドが加わる。アル・カポネが密造酒で名をはせた禁酒法時代から約100年。暗黒時代のイメージを刷新するシカゴの地ウイスキーが世界に向けて大きく羽ばたく。

(シカゴ=野毛洋子)

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