米で「気候移住」が増加 災害リスク、転居理由の5割に - 日本経済新聞
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米で「気候移住」が増加 災害リスク、転居理由の5割に

シカゴ支局 野毛洋子

米国で気候変動を理由にした人の移動が増えている。米不動産業者の調査によると、2022年に住宅の購入または売却を計画する米国人の半数が気候リスクを理由に挙げた。世界では50年までに2億人以上が移住を迫られるおそれがあるとの指摘もあり、主要都市が気候リスクに伴う災害対策を急いでいる。

インターネット不動産仲介の米レッドフィンが21年12月に実施した調査によると、向こう1年間に住宅を購入または売却する計画の米国人1500人のうち、10%が洪水や山火事など災害を伴う気候リスクが転居の最大の理由だとし、39%が理由の一つだと答えた。

同社のチーフエコノミスト、ダリル・フェアウエザー氏は、米国人の気候リスクへの意識の高まりを指摘する。21年に山火事などの記録的な火災被害に見舞われた西部カリフォルニア州から、南部フロリダ州など州外に移住するケースが増えた。フロリダ州でも、洪水リスクの高い沿岸から内陸地域に移住する人が目立つ。

同調査では、自宅を所有する米国人の約半数が自然災害への対策に少なくとも1000ドル(約11万5000円)を使ったと回答した。なかには2万ドル以上費やした人もいた。フェアウエザー氏は暴風雨や洪水などでかさむ修理費の経済的、心理的負担も移住の原因だと分析し、「火事や洪水などのリスクの高い地域からの転居が加速する」と予測する。気候リスクを考慮した移住は不動産価格にも影響を与え始めており、人気が高かった沿岸地域などの地価が下がる可能性があるという。

住民全体が移転迫られる「気候難民」に

レッドフィンは昨年8月、地域ごとの自然災害リスクをまとめた「気候格付け」を公開した。利用者が住所を入力すれば、過去30年に発生した火災や干ばつ、ストーム(嵐)などの被害データに基づく災害リスクを調べることができる。

中西部イリノイ州シカゴ郊外に住むチャールズさんは「水不足に備えるために、湖の多い(中西部)ミシガン州の不動産を探している」と話す。5歳と7歳の息子のために安定した水源を確保するのが目的だ。米国では各地で干ばつ被害が増えており、将来、水資源の奪い合いが起こることを心配している。「今のうちに水の使用権がある物件を手に入れておきたい」と真剣だ。

災害や紛争による人の国内移動を分析するスイスの非営利団体IDMCによると、20年の米国の災害による国内移動件数は171万件と過去10年間で最高になった。世界の国内移住は4050万件と同じく過去10年で最高だった。災害による移住は3070万件と全体の8割近く、紛争による移住を大きく上回る。

気候変動により地域住民がそっくり移転を迫られる「気候難民」も生まれている。メキシコ湾沿いにあるルイジアナ州の小島アイル・デ・ジーン・チャールズは水位の上昇で地盤が海面下に沈み、州政府が16年に4800万ドルを投じて500家族の移住を決めた。今年夏に全住民の移住が完了する計画だ。アラスカ州でも先住民が住むニュートック村で永久凍土の溶解により土壌沈下が発生し、19年に村ごとの移住を余儀なくされた。

対応急ぐ自治体

昨年、米国には歴史的な災害被害が続いた。2月に南部テキサス州を大寒波が見舞い、200人を超える死者が出た。7月にカリフォルニア州で発生した山火事「ディキシーファイア」の被害は東京都の面積に匹敵する約2000平方キロメートルに及んだ。

米保険仲介大手エーオンによると、気候災害による21年の米国の経済損失は1690億ドルと世界(3430億ドル)の半分を占め、00年以降の年間の平均損失額を9割上回った。ハリケーンに伴う降雨量が増加するなど1件当たりの災害の規模が大きくなっていることが、被害額の増加につながっているという。

災害の増加を受けて各都市は対応を急いでいる。ニューヨーク市長は昨年、洪水対策に14億5千万ドルを投じるインフラ整備プロジェクトを発表した。12年に市民44人の死者を出した大型ハリケーン「サンディ」の被害などを念頭に、防水壁「シーウオール」の建設や河川の盛り土などの工事を始めた。

カリフォルニア州サンフランシスコも防水壁や盛り土で地震と海面上昇に備える港湾プロジェクトに着手した。フロリダ州やイリノイ州でも海岸や湖岸で防水壁の建設が進む。

世界銀行は50年までに、アフリカを中心に2億1600万人が気候変動による国内移住を迫られる可能性があると試算する。米ブルッキングス研究所で気候と移住について研究するカルロス・マーティン氏は「干ばつや水害の増加に伴い、米国でも今後30年間で気候を理由とする移住が加速度的に増えていく」と警鐘を鳴らす。

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いま大きく揺れ動く、世界経済。 自分か。自国か。世界か。このコラムでは、世界各地の記者が現地で起きる出来事を詳しく解説し、世界情勢の動向や見通しを追う。 今後を考えるために、世界の“いま”を読み解くコラム。

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