休暇直撃の米寒波、死者60人超に 物流・インフラに混乱

【ニューヨーク=白岩ひおな】米国のホリデーシーズンを直撃した歴史的な寒波は、全米で少なくとも60人超の死者を出した。飛行機の欠航や配送の遅延のほか、ピーク時には170万世帯が停電するなど市民の生活を支えるインフラにも混乱が生じた。積雪後の気温上昇が洪水など二次災害につながる恐れもあり、気象当局は警戒を呼びかけている。
「爆弾低気圧」、2億人に影響
国立気象局によると、気圧が急降下して寒波や大雪、強風をもたらす「爆弾低気圧」により、21日ごろから天候が悪化。米国ではクリスマスを含む週末に人口の6割にあたる2億人超が居住する地域で気象警報や注意報が発令された。
記録的な寒波の要因として、地球温暖化による北極周辺の気象パターンの変化を指摘する専門家もいる。コロラド州の気象学者、ボブ・へンソン氏は「北極の温暖化に伴うジェット気流の乱れによって(寒波や雪が)強まる可能性がある」とみる。
積雪が4フィート(1.2メートル)超に及んだニューヨーク州のバファロー市を含むエリー郡では少なくとも34人が亡くなった。雪で車内に閉じ込められたり、停電や吹雪のなか、救急車の到着など必要な処置が遅れたりする例があった。
エリー郡高官は「(29人が死亡した)1977年のバファローの嵐の被害を上回る」と指摘し、ニューヨーク州のホークル知事は「世紀に一度の吹雪」として記録に残るだろうと述べた。バイデン大統領は26日、同州に緊急事態宣言を出した。
28日には州兵と緊急医療チームが1軒ずつ回り、市民の被害や健康状態を確認した。路面凍結などの危険があるため、運転禁止令を出した上で道路の除雪や一部の運用再開を進めた。運転禁止令は同日深夜に解除された。
「クリスマスのプレゼント届かない」
各地の空港ではクリスマスや年末年始の旅行や帰省を計画していた市民らが足止めされた。航空情報サイト「フライトアウェア」や米CNNによると、22日から28日までに米国内の空港を発着する航空便のうち2万5000便超が欠航した。大半が格安航空会社(LCC)サウスウエスト航空の運航便だった。
旅行客が空港で立ち往生したり、欠航によりいったん預け入れた荷物が大量に取り残されたりする光景がみられた。

クリスマスギフトの配達など物流網の一部にも影響が生じたもようだ。「クリスマスをもう過ぎたのに、孫娘へのプレゼントが届かない」。SNS(交流サイト)のツイッター上には配送の遅延を嘆く投稿が寄せられた。
電力価格65倍、正常化に時間
物流大手UPSは週末にミシガン、ニューヨーク、インディアナ、オハイオの4州の数百の地域で集荷や配達のサービスを一時停止。フェデックスもテネシー州メンフィスやインディアナ州インディアナポリスのハブ拠点で混乱が生じているとして、配送の遅れを警告した。
電力の供給にも障害が起きている。全米の停電情報を追跡するウェブサイト「パワーアウテージ・ドット・US」によると、28日午後4時時点で西部のワシントン州やオレゴン州など5州の8万7000を超える世帯・事業所が停電したままだ。
ブルームバーグ通信によると、需給の逼迫を受け、テキサス州ヒューストンの卸電力価格は23日に1メガワット時で約3700ドル(約50万円)と、前日の最高値の65倍に高騰した。こうしたコスト上昇分は今後、消費者の払う電気料金に転嫁される可能性がある。
気象当局は積雪後の気温上昇で鉄砲水や洪水などが起きやすくなるため、寒波の影響は「次の週末まで長引く」と指摘する。気温低下や雪による小麦など作物への被害も見極める必要があり、正常化にはなお時間がかかりそうだ。