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ブラジル新大統領、今後の展望は 専門家に聞く

【サンパウロ=清水孝輔】ブラジルで30日に投開票された大統領選挙の決選投票で、左派のルラ元大統領(77)が当選した。2023年1月に誕生する左派政権で経済政策や外交方針はどう変わるのか。専門家に展望を聞いた。

「政策は中道寄りに 議会の基盤弱く」 サンパウロ大のパブロ・オルテラド教授

――左派のルラ氏の大統領就任でブラジルの政策は変わりますか。

「政策は中道に寄らざるを得ないだろう。ルラ氏が所属する労働者党(PT)の会派は過半数を得ておらず、政策を通すには野党と協力する必要がある。様々な考えを持つ議員がいるため、ルラ氏が過度な左派政策を進めるのは難しいと考えている」

――ブラジルの外交政策はどうなりますか。

「米国とはルラ氏の方がボルソナロ氏よりもよい関係を築くだろう。ルラ氏が所属する労働者党は米国の与党、民主党と近い。ルラ氏はベネズエラ、キューバといった社会主義を標榜する国の指導者たちとも対話できる。米国だけでなくほかの新興国とも政治的な合意を結べる中南米のリーダーになれるだろう」

――決選でルラ氏とボルソナロ氏の得票は拮抗しました。

「民主主義の国では有権者の票が割れるのは通常のことだ。それよりもブラジルの市民社会が分断している事態の方が問題だ。熱狂が暴力につながりかねない危険な状況に陥っている」

――分断の原因をどう考えていますか。

「米欧でも見られる現象で、明確に説明するのは難しい。ただ、ボルソナロ氏が台頭した背景には支持基盤であるキリスト教福音派の存在がある。男性はボルソナロ氏に、女性はルラ氏に投票する傾向だった。次の大統領選に向けて世論の二極化はさらに進むだろう」

――敗れたボルソナロ氏の陣営からはどのような反応が予想されますか。

「ボルソナロ氏は選挙の不正を訴える可能性が高い。選挙戦では、投票システムなどの合法性を疑う運動を展開してきた。支持者は(以前よりも)多くの銃を所有している」

――ボルソナロ氏は元軍人です。クーデターに発展する可能性はありますか。

「可能性は非常に低いと考える。産業界や金融界のエリート層は投票結果を拒否する候補者を受け入れない方針だ。米国や欧州連合(EU)も選挙結果を認めるだろう」

Pablo Ortellado 専門は政治学。2005年から現職。ブラジル社会の分断についてSNS(交流サイト)や世論調査のデータを基に研究。49歳

「当面は低成長に」 ブラジルの投資会社幹部、エバンドロ・ブッチニ氏

――ブラジル経済は成長し続けられるでしょうか。

「当面は低成長に陥り、先進国に追いつくのは難しいだろう。ブラジルは生産年齢人口の増加ペースが鈍化した。(2003年から8年間の)前のルラ政権時は人口が急増し、資源価格の上昇が追い風になった。今回は同じような経済成長は期待できない」

「成長には生産性の向上が必要だ。基礎教育の充実は一つの有力な手段になるだろうが、いまは政府の支出が年金に偏っている」

――経済の行方をどうみていますか。

「実質成長率は22年が2.6~2.7%、23年は0.5%と見込んでいる」

――ブラジルの中央銀行は9月の金融政策決定会合で利上げを停止しました。

「23年には利下げに転じるだろう。政策金利は現在、年13.75%だが、23年末時点では11%台に下がるとみている。インフレ率は22年末時点で5.5%だが、23年末には5.0%に下がると見込んでいる」

――通貨レアルの対ドル相場はほかの新興国通貨に比べ堅調です。

「背景には高金利がある。米金融当局の引き締め転換に先立ち、ブラジル中銀は利上げに着手し、政策金利は中南米諸国のなかでも高水準だ」

Evandro Buccini 2014年まで投資会社リオ・ブラボ・インベスティメントスのチーフエコノミスト、17年から同社パートナー。34歳

「貿易協定には後ろ向きか」 ジェトゥリオ・バルガス財団のペドロ・ブリテス教授

――ブラジルの外交方針は変わりますか。

「現職のボルソナロ大統領は再選を目指して国内政策を重視し、外交には関心を示さなかった。ルラ氏が所属する労働者党(PT)の経済政策は保護主義的で、貿易協定には後ろ向きかもしれない。それでも全体としてルラ次期政権は国際社会の信頼を取り戻し、対話を呼びかける役割を果たそうとするだろう」

――中南米にとって中国は、米国に代わるパートナーになりつつあります。

「南米は中国との経済的な結びつきを強めてきたが、近年は対米関係の悪化を懸念して中国との関係構築には慎重になっている。(ブラジルを含め)対立する米中のどちらにつくかを明確に示す必要はないと思う」

――ルラ氏は主要新興5カ国によるBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の枠組みを強化する考えを示しています。

「そのように積極的に働きかけるかもしれない。ウクライナに侵攻したロシアに対しては非難するだけでなく、対話の調整役になろうとするだろう。ただ、BRICSの国々は利害が異なる。国際連携の枠組みとしてまとまるのは難しい」

Pedro Brites  専門は国際関係論。リオグランデ・ド・スル大(ブラジル)博士。ブラジルの研究機関ISAPEのゼネラルディレクターなど歴任

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