テスラが値上げで難路 平均750万円に、EV普及遅れ懸念

米経済が直面する歴史的なインフレを背景に、米テスラの電気自動車(EV)の価格上昇が止まらない。2022年4~6月期の平均単価は前年同期比13%増の5万7000ドル(約750万円)台に達した。値上げで業績は好調な一方、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)はEVの普及ペースを鈍らせかねない事態にいらだちを募らせている。
1万7000ドルの値上がり
「はっきり言って、恥ずかしいレベルだ」。4~6月期決算の説明会で、電話会議に参加した証券アナリストらを前に、マスク氏は過去1年以上にわたって繰り返してきた頻繁な値上げへの不快感をあらわにした。
21年3月上旬に4万8990ドルだった主力車種「モデルY」の最廉価グレードの米国内価格は足元では6万5990ドルに上昇した。約1年4カ月間の価格改定は10回を超え、値上げ幅は累計で1万7000ドルにのぼる。

4~6月期の自動車部門の売上高を販売台数で割って算出したEVの平均単価は前年同期に比べ6632ドル上昇し、5万7331ドルになった。これは大衆車ブランドではなく、独BMWや独メルセデス・ベンツグループなどの高級車メーカーと匹敵する水準だ。
それでもテスラ車の人気は高く、米国のウェブサイトでは主力車種の納車は軒並み6~9カ月待ちとなっている。受注から車両引き渡しまでの間にも原材料価格や物流費などの上昇が見込まれるため、その間のインフレ率を予測してやむなく値上げする必要があるのだという。
半導体不足で需給逼迫
米国では一般に自動車メーカーがディーラーに対して希望小売価格を変更するのはモデルチェンジなどの機会に限られる。ディーラーを介さず、消費者に直販するテスラはこうした縛りを受けない。利幅の改善によって4~6月期の売上高営業利益率14.6%と3.6ポイント上昇し、自動車業界で高収益の目安とされる10%を上回った。
米国で車価格が上昇しているのはテスラだけではない。世界的な半導体不足に伴う需給の逼迫によって幅広い車種で中古車価格が急騰している。中古車の価格が新車を上回る現象も起き、希望小売価格に「マークアップ」と呼ぶ追加料金を上乗せするディーラーも増えている。
米国内の新車価格情報をまとめたウェブサイト「マークアップス」によると、人気車種では希望小売価格に対する上乗せ額は2万ドル前後に達するケースもある。これまで高額の奨励金で販売を下支えしてきた一部の自動車メーカーの間では、今回の需給逼迫を価格適正化の好機と捉える向きもある。

一方、EVの普及を急ぐマスク氏の考えは異なるようだ。決算説明会では「価格に見合った価値と根本的な値ごろ感は違うという点を指摘しておく必要がある」と述べた。仮に商品の価値を高めることに成功したとしても「消費者がそれを買うだけのお金を持っていなければ需要は崖に直面する」ためだ。
一部の原材料費は下落基調
テスラは石油依存社会からの脱却というミッション(使命)を掲げるが、達成するにはEV価格をガソリン車並みに引き下げる必要がある。インフレのために値上げするガソリン車メーカーやディーラーを尻目に、マスク氏は「価格を恣意的に高くすることはできない」と強調した。
マスク氏は米国の経済環境について「我々がコントロールできるものではない」と断りつつ、「もしインフレ率が低下するような兆候が見られたら、車の価格を上げる必要はないだろう」とも話した。炭素鋼やアルミニウムなどの原材料価格は下落基調にあり、年末にかけてインフレ率が低下するとの見通しも示した。
米金利上昇に伴って景気が後退局面に入れば、半導体などの供給制約は段階的に解消していく。米新車市場の需給逼迫や価格上昇がいつまでも続くわけではない。自動車産業に破壊的なイノベーション(技術革新)をもたらしつつある異端児は次の競争環境を見据えつつある。
(シリコンバレー=白石武志)
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