米国格付け、引き下げ警告相次ぐ 債務上限の交渉難航で

【ニューヨーク=竹内弘文】米政府債務の上限引き上げ交渉を巡り、格付け会社による警告が相次いでいる。各社は、交渉が長引けば米国の信用格付けを引き下げる方向で見直す方針だ。政府資金が底をつく「Xデー」が迫る中、債務不履行(デフォルト)に陥るリスクが徐々に高まってきたと懸念する。格下げは投資行動に影響するため、金融市場は動向を注視している。
「債務上限を巡る(与野党間の)瀬戸際戦術や、当局が中期的な財政課題に取り組んでいない状況は米国の信用力の下振れリスク」。大手格付け会社フィッチ・レーティングスは24日、米国格付けの見通しを「ネガティブ」とした理由を説明した。
米国の格付けは最上位「トリプルA」に据え置いたが、今後の状況次第で格下げがあり得るとの警告だ。中堅格付け会社DBRSモーニングスターも25日、米国の格付けを最上位で維持しながら見通しを引き下げた。
別の大手格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは現時点で格付け見通しを変更していない。3月のリポートでは、Xデー前に合意に至る確率が低下したと判断すれば「見通しの引き下げを検討する」と記した。

今回のXデーの時期を巡っては予想に幅があるが、イエレン米財務長官は早ければ6月1日と指摘している。米NBCのインタビューでは「政府支出をすべて払いながら6月15日を迎えられる可能性は非常に低い」と語った。15日は財務省短期証券と利付国債の元利払いが計3000億ドル(約42兆円)弱あるためだ。
ムーディーズの政府格付け担当者のウィリアム・フォスター氏は米ブルームバーグ通信のインタビューで「15日は非常に重要な日だ」と指摘。現状の資金繰りでは同日の利払いが滞り、債務不履行に至る可能性があるとの見方を示した。
格下げへの道筋には会社ごとに温度差がある。ムーディーズは「債務不履行となれば格付けを1段階引き下げる」(フォスター氏)という。一方のフィッチは交渉が妥結しないままXデーを通過すれば「トリプルA格にそぐわない」とみる。米政府が緊急の資金のやりくりで債務不履行を回避しても格下げの要件を満たすと示唆した。
S&Pグローバルは11年、債務上限交渉の妥結から3日後に最上位から1段階格下げし、それ以降は「ダブルAプラス」を継続する。当時は格下げで世界の金融市場でリスク回避が進み、株式相場は急落した。代わりに日本円やスイスフラン、金などに資金が流入した。米国債は格下げにもかかわらず「安全資産」と見なされ利回りが急低下(価格は急伸)した。
今回、米国が別の格付け会社からも最上位格付けを失えば、市場混乱の再来となりかねない。国の信用力に依拠する地方政府や銀行業界にとっては、米国の格下げが自身の信用力を押し下げる要因になりかねず、資金調達コストが上昇する可能性もある。

債務不履行に陥った場合でも、米国債取引が止まるわけではない。ある債券が不履行となった場合に、同じ発行体が出した債券すべてが同時に不履行扱いとなる「クロスデフォルト条項」が米国債にはないためだ。
ただ、不履行になった債券をどう取り扱うかなど、証券取引の実務面で支障が出る可能性がある。米メディアの報道によると、業界団体の米証券業金融市場協会(SIFMA)は混乱を最小限にするため、利払い遅延時のバックアッププランを策定しているという。
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米連邦政府が発行できる国債などの総額は法律で定められており、これを債務上限と呼びます。国債の元本償還や利払いに回す資金が調達できず債務不履行(デフォルト)に陥る懸念が高まっていました。デフォルト回避には米議会の承認が必要になります。