/

米分断、司法も揺るがす 中絶禁止・規制に世論二分

think!多様な観点からニュースを考える

【ワシントン=中村亮】米連邦最高裁判所は24日に下した判決で、半世紀ぶりに人工妊娠中絶の禁止を認める立場へ転じた。米世論を二分する問題で保守派寄りの判決が出た背景には、党利党略を優先し、米社会の分断の深刻化もいとわない政治手法が問題として浮かび上がる。

最高裁は24日、中絶を合衆国憲法が認める権利と位置づけた1973年の「ロー対ウェード判決」を無効とする判断を示した。全米統一のルールがなくなり、中絶の是非は各州に委ねられて中絶の禁止や制限に道を開いた。ロー対ウェード判決は妊娠23週ごろまでの中絶を認めると解釈されてきた。

最高裁の判断を受けて南部オクラホマ州では24日、中絶を重罪と位置づける州法が発効した。受精時点からの中絶を違法としており、事実上の全面禁止となる。南部ルイジアナ州でも性的暴行や近親相姦(そうかん)による妊娠にも例外を認めない中絶規制法が発効した。

米グートメーカー研究所によると、ロー対ウェード判決が無効になった場合、13州で中絶規制法が自動的に発効することになっている。同研究所はこれら13州を含む26州が中絶の禁止・制限措置を講じる見込みだと指摘している。

ただ、人工妊娠中絶を巡る米国内の世論は支持政党によって大きく異なる。米ピュー・リサーチ・センターによると、民主党支持者の80%が合法だとする一方、共和党支持者では38%にとどまる。全体では約6割が中絶を合法とみている。

こうした状況のなかで今回の判決が出たのは、最高裁は判事9人のうち6人を保守派が占めているためだ。共和党を支持する多くの保守派にとって、ロー対ウェード判決の無効は悲願だった。

最高裁が保守に大きく傾いた理由はなにか。背景には、連邦裁判所判事の承認権限をもつ議会上院での手続き変更がある。

オバマ政権下で民主党は2013年、上院(定数100)で第二審にあたる控訴裁の判事承認に必要な賛成票を60票から51票に引き下げた。共和党からの賛成が得られず、判事の承認が滞ったからだ。60票が必要な従来の手続きは承認に超党派の合意がいるため、判事に大きな偏りが出ない制度として機能してきた。賛成票の引き下げは禁じ手とされていた。

民主党に対抗し、トランプ政権下では共和党も17年、最高裁判事の承認に原則として必要な賛成票を60票から51票に引き下げた。判事の承認において超党派の合意を得る機運はさらに薄れ、多数派を握る政党が同じ考えをもつ候補を独断で承認できるようになった。

判事は終身制で、本人が辞任しない限り職務を続けられる。米社会の行方を大きく左右する判事を多く承認するほど、政権は支持層への求心力を高めやすい。民主党と共和党はともに党利優先で判事の承認を急いだ面が大きい。

トランプ前大統領が最高裁判事に指名した保守派のニール・ゴーサッチ、ブレット・カバノー、エイミー・バレットの各氏は、上院で60票の賛成を得ずに承認された。バイデン大統領が指名したリベラル派のケタンジ・ブラウン・ジャクソン氏の承認も賛成票は53票にとどまった。

バイデン氏は24日の演説で「最高裁の極端なイデオロギーと悲惨な誤りの表れ」と非難した。11月の中間選挙に向けて「中絶の権利が投票に委ねられた」と訴えた。バイデン氏は議会に中絶の権利維持に向けた連邦法の制定を以前から求めており、そのためには中間選挙後も上下両院で民主党が多数派を維持することが大前提になる。

トランプ氏は声明で「今日の判断は生命のための最大の勝利だ」と評価した。同氏が指名した最高裁判事3人がロー対ウェード判決の無効に寄与したことを、自身の政権の成果だと強調した。24年の大統領選への再出馬が取り沙汰されるなかで、実績をアピールして保守派からの求心力を固める思惑も透ける。

政治色を強める最高裁への米国民の信頼は低下している。米調査会社ギャラップが23日にまとめた世論調査では、最高裁を大いに信頼するとの回答は25%にとどまった。21年の調査から11ポイント下がった。最高裁の判決に米国民が疑念をもつようになれば、法治国家としての土台が揺らぎかねない。

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

  • この投稿は現在非表示に設定されています

    (更新)
    (0/300)
(0/300)
投稿内容をご確認ください
投稿チェック項目誤字脱字がないかご確認ください
投稿チェック項目トラブル防止のため、記事で紹介している企業や人物と個人的つながりや利害関係がある場合はその旨をお書き添えください
投稿チェック項目URLを投稿文中に入力する場合は、URLの末尾にスペースか改行を入れてください
詳細は日経のコメントガイドラインをご参照ください

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

バイデン政権

アメリカの「バイデン政権」に関する最新ニュースを紹介します。その他、日米関係や米中対立、安全保障問題なども詳しく伝えます。

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン