米州兵が台湾軍訓練　国防長官「中国抑止へ重要」

【ワシントン=中村亮】オースティン米国防長官は23日、州政府所属の軍隊である「州兵」が台湾軍に訓練を実施していると明らかにした。多彩な訓練メニューを提供し、台湾の自衛力強化を後押しする。中国抑止に向けて武器の引き渡しも急ぐ。

オースティン氏は下院歳出委員会の小委員会で「州兵が台湾のパートナーと協力し、多くの分野で技能を向上させている」と証言した。中台統一を目指す中国の抑止に向けて州兵による訓練が「とても重要だ」と強調した。

州兵の訓練を受けたウクライナ軍がロシアと効果的に戦っており、台湾にとって「素晴らしい事例になる」とも話した。2014年のロシアによるウクライナ領クリミア半島の併合後、州兵は2万人以上のウクライナ兵を訓練した。

オースティン氏が台湾との軍事協力の具体的な内容に言及するのは珍しい。台湾は米中関係において最も機微に触れる分野の一つであるため、慎重な言い回しが目立っていた。

州兵は冷戦後、主に「州パートナーシッププログラム（SPP）」を通じ、80カ国以上へ訓練を提供してきた。訓練内容は支援国に応じて異なり、歩兵部隊の作戦実行や航空機の運用、サイバー防衛、災害・テロ対策、医療支援など多岐にわたる。

米国はSPPを台湾と結んでいないとみられるが、州兵を活用して訓練内容を充実させているもようだ。過去に米国の訓練は台湾が購入した米国製兵器の使い方を教える例が多かった。

州兵の訓練は中国による台湾侵攻リスクに関し、米国の危機感が高まっていることを映す。米情報機関は中国が2027年までに台湾侵攻能力の取得を目指していると公言する。台湾の自衛力強化に残された時間は多くない。

米海兵隊トップのバーガー総司令官は2月、日本経済新聞の取材で「台湾が要請して米国が同意すれば我々はあらゆる訓練を提供する」と明言し、訓練に意欲を示していた。

バイデン米政権は台湾への武器の引き渡しも加速させる構えだ。米国では防衛産業の人手や部品の不足で兵器システムや弾薬の生産が停滞。ウクライナへの支援拡大もあり、在庫が減った。その影響で台湾への武器の引き渡しが滞っているとの見方がある。

オースティン氏は公聴会で「停滞を解決して（台湾への引き渡しを）前倒しするため加速につながる全てのことを実行する」と発言した。

「台湾が必要とする正しい戦力を確実に提供できるように週または月単位で国防総省高官を集めて（話し合って）いる」とも語った。

米国務省当局者は取材で防衛産業に関し「平時シナリオに基づいて行動している」と断言した。「戦時モードに移行させるため米政府からある程度の規模で（武器調達に）投資する必要がある」と述べた。

米国防総省は24会計年度（23年10月〜24年9月）の予算教書で、ミサイルや弾薬の調達に306億ドル（4兆円）を求めた。23年度の要求額より24%増やした。

米政権は安定的な需要の見通しが立てば防衛企業が生産能力を増やすとみて予算を増やす。

同当局者は、産業界から生産能力拡大に慎重な理由について「湾岸戦争のときに見た光景と同じだ」と告げられたと話す。戦争時に武器需要が急増し、数年後に急減した教訓がある。

台湾をめぐり米国と中国の激しい対立は続く。台湾の蔡英文（ツァイ・インウェン）総統は3月30日と4月5日、中米訪問の途中に米国へ立ち寄る予定だ。

米西部カリフォルニア州でマッカーシー下院議長と会談する公算が大きい。中国が反発するのは確実だ。

米インド太平洋軍のアキリーノ司令官は3月中旬、シンガポールで開いたイベントで中国の東部戦区や南部戦区の司令官に対話を要請し、1年半にわたって実現していないと説明した。意思疎通が細るほど偶発的衝突のリスクが高まる。