NVIDIA、売り上げ最高も もろ刃の仮想通貨ブーム

【シリコンバレー=佐藤浩実】米半導体大手のエヌビディアが業績拡大を加速させている。24日に発表した2020年11月~21年1月期決算は売上高、純利益ともに過去最高を更新した。ゲーム向けがけん引するが、暗号資産(仮想通貨)を得るために半導体を使う人や事業者も目立つ。過去の仮想通貨ブームの反省を生かした対策が安定成長のカギを握りそうだ。
11~1月期の全社の売上高は前年同期比61%増の50億300万ドル(約5300億円)、ゲーム部門は67%増の24億9500万ドルだった。同部門は8~10月期比でも10%多い。パソコンでゲームの映像をなめらかに表示するGPU(画像処理半導体)の販売拡大が続いた。

年末商戦での旺盛な需要を映した形だが、買い手はゲーム愛好家だけではない。ビットコインやイーサリアムといった仮想通貨価格の急上昇に伴い、取引記録に協力して報酬を得る「マイナー(採掘者)」も計算能力が高いGPUに手を伸ばしている。
米オンライン掲示板のレディットでは「どの半導体が稼げるか」といった議論が盛んだ。専用半導体の利用が多いビットコインのマイニング(採掘)に対し、汎用性が高いエヌビディアのGPU「RTX3080」や「同3090」はイーサリアムの採掘者に人気がある。同社はゲーム部門の売上高のうち1億~3億ドル程度は、マイニング用途での購入だったとみている。
想定外の需要を手放しで喜ぶことはできない。エヌビディアの主要顧客であるゲーム愛好家の間で「採掘者による大量購入がGPUの品薄に拍車をかけた」という不満が募っているためだ。さらにエヌビディアには、17~18年初めの仮想通貨ブームに翻弄された過去がある。

当時も採掘者たちはゲーム用GPUに目をつけ、エヌビディアに特需をもたらした。ただ供給量を増やした頃には仮想通貨価格は下落し、マイニングも下火になった。店頭に積み上がった在庫の消化に時間がかかり、エヌビディアの業績は停滞。株価も落ち込み、データセンター向けの人工知能(AI)半導体が伸びる19年半ばまで低迷が続いた。
仮想通貨とマイニングへの熱が再び高まる今回は防御策に動く。2月25日に発売するゲーム用GPU「RTX3060」ではあえて採掘効率を下げ、イーサリアムの採掘に事実上使えなくした。一方、「CMP」と呼ぶマイニング専用の半導体を開発し、3月から順次出荷を始める。
「製品を明確に分けることで、ゲーム事業に害を与えずに需要の多様化に応えやすくなる」と、米調査会社フーチュラムリサーチのダニエル・ニューマン首席アナリストはみる。世界的に半導体の需給が逼迫するなか、用途ごとの実需を把握できれば、機会損失を最小限に抑えられる。

仮想通貨を巡ってはイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が率いる米テスラが15億ドル分のビットコインを購入するなど、個人が中心だった17~18年のブームとは異なる動きもある。米ブルームバーグ通信は22日、仮想通貨マイニングを手掛ける独ノーザン・データが米国でのIPO(新規株式公開)を検討していると報じた。ブームを超えて定着するかも含め、様々な意見が飛び交っている。
前回のブームが過ぎた19年初め、エヌビディアのジェンスン・ファンCEOは自社の状況を「うたげ後の二日酔い」と表現し、「仮想通貨は二度と買うな」と語った。過去最高の売上高を発表した24日の決算会見でも、マイニング用の新製品は「我々のビジネスのごく一部にとどまるだろう」と発言。慎重な姿勢を保ち、仮想通貨ブームへの警戒感をにじませた。
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