主要中銀、ESG加速 グリーン債購入や格差是正目標

【ワシントン=河浪武史】日米欧の主要中央銀行は2021年、ESG(環境・社会・企業統治)重視の政策運営を加速する。欧州中央銀行(ECB)が金融緩和のための資産購入の対象に「グリーン資産」を加え、企業の環境投資を後押しする。米連邦準備理事会(FRB)も政策目標に低所得層の雇用拡大を入れ込む。銀行のストレステスト(健全性審査)に環境リスクを加える動きも強まる。
ECBは1月から「環境目標連動債」を資金供給の担保に加える。同債券は発行する企業が環境目標を定め、未達なら上乗せ金利を支払う仕組み。発行企業と投資家の環境意識をともに高めることができる。量的緩和(QE)でのグリーン資産の買い入れが可能になり、金融緩和で温暖化対策を後押しする「グリーンQE」に近づくとの声もある。
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欧州では投資家がESGを一段と重視するようになっている。高級ブランドのシャネルは6億ユーロ(約760億円)の環境目標連動債を発行した。同社は30年までに温暖化ガスの排出を5割削減するなどの目標を定めており、達成できなければ上乗せ金利を投資家へ払う。こうしたグリーン資産の市場整備を中銀も資金供給で後押しする。
米国では格差是正が課題だ。バイデン米次期大統領はFRBに対し「職業や賃金、資産における人種格差への対応が必要だ」と主張する。FRBも20年8月に物価と雇用の政策目標を修正し、雇用の最大化は「広範でインクルーシブ(包摂的)なゴール」と定義を変更して雇用重視の姿勢を強めた。
パウエルFRB議長は「新たな指針は、特に低中所得層を重視したものだ」と強調し、雇用改善へ長期の低金利政策を確約した。米労働市場は新型コロナウイルス危機で低所得層やマイノリティーの失業率が高止まりし、所得格差は戦後最悪の状態だ。低所得層を中心に米家計の5%は銀行口座を持っていない。民主党内にはFRBに家計向けの「国民皆口座」を提供させる案まで浮上している。

気候変動リスクを銀行のストレステストに加える動きも広がる。民間銀行が経営上の自然災害リスクに備えているかどうかを投資家が注視し始めたためだ。イングランド銀行(英中銀)は21年6月に実施する新たなストレステストで、洪水などの気候リスクや石油価格、社債利回りなどを分析。地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」の達成具合に応じ、銀行の自己資本がどれくらい変動するか調べる。
日銀も21年度から金融機関を点検する「考査」に気候変動リスクを加え、将来はストレステストも検討する。ECBは22年に気候リスクを加えてストレステストを実施する方針だ。トランプ政権下で環境問題に及び腰だったFRBも、バイデン氏の大統領当選が確定した20年12月15日に約70カ国の金融当局による温暖化対策グループ「気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS)」に加盟を決めた。
中銀は08年の金融危機後、低金利政策や銀行規制などで金融市場の立て直しを急いできた。ただ自由市場型の資本主義は格差拡大や環境破壊などの問題を広げた。中銀のESG重視は、資本主義のほころびに政策で対処する必要が強まっているからだ。
地球温暖化や気候変動に対応するためには政府の政策を総動員する必要があり、中銀はその補佐役にすぎない。緩和余地を失った金利政策の身動きがとれず、環境対策や格差問題に中銀が活躍の場を求めている面もある。
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