BMWやGM、メキシコでEV投資 米市場向け供給網

【メキシコシティ=清水孝輔、ニューヨーク=堀田隆文】自動車大手がメキシコで電気自動車(EV)の投資に乗り出している。独BMWはメキシコ中部の工場に8億ユーロ(約1100億円)を投じてEVを生産する。米ゼネラル・モーターズ(GM)は北部にある工場を2024年にEV専用の生産拠点にする。各社は米国市場向けに安定した供給網の構築を急ぐ。
BMWは3日、中部のサンルイスポトシ州にある工場に8億ユーロを投資すると発表した。5億ユーロを投じて同工場の敷地内にEV向け電池の生産拠点を建設する。残りの3億ユーロをEVの製造ラインなどに投資する。24年にEV向け電池、27年にEVの生産を始める計画だ。今回の投資によって新たに1000人の雇用が生まれる見込みだという。
GMは24年にかけて北部のコアウイラ州にあるラモス・アリスペ工場のEV生産比率を高める方針だ。メキシコ経済省が1月、「ブエンロストロ経済相が(GM幹部から)24年にはEVだけを生産すると説明を受けた」と明らかにした。GMは40年以上前から同工場でガソリン車を生産してきた。
米フォード・モーターは中部メキシコ州で主力のEV「マスタング・マッハE」を製造している。ジム・ファーリー最高経営責任者(CEO)は同車種の欧米市場向けの年間の生産台数を23年までに21年比で3倍に増やす計画を示している。メキシコ北部ヌエボレオン州には米テスラが進出する可能性も報じられている。
サプライヤーも相次ぎ進出する。韓国LG電子は22年、カナダの車部品大手マグナ・インターナショナルとの合弁会社がコアウイラ州でEV向けの部品工場を建設すると発表した。同州のラモス・アリスペ市の高官は「23年はEVのサプライヤーなど10〜15社が市内に進出するだろう」と見込む。

メキシコへのEV投資が相次ぐ背景にあるのが生産拠点を消費地の近くに移転する「ニアショアリング」の動きだ。米中対立や新型コロナウイルスによる物流網の混乱を受け、米国市場を狙う企業は供給網の分断リスクに危機感を抱く。ヌエボレオン州やコアウイラ州は米国と国境を接しており、EVの生産地の有力候補になっている。
20年には北米自由貿易協定(NAFTA)に代わり、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が発効した。メキシコに生産拠点を置く企業は一定の基準を満たせば関税ゼロで米国に輸出できる。メキシコは最低賃金が米国に比べて大幅に安いため、人件費を抑えられるメリットがある。
さらに追い風が吹く。米バイデン政権は30年までに、米国内で売る新車の5割以上をEVやプラグインハイブリッド車とする目標を掲げる。22年8月に打ち出したEV支援策では、消費者がEVを買う際に拠出する補助金(1台当たりの税額控除額で最大7500ドル)の対象を北米生産に限った。EVに使う車載電池の部品の調達先についても、生産の一定割合を北米とすることを手厚い支援のための条件としている。
この北米にはメキシコとカナダも含まれる。企業側も生産拠点を設ける際にこの2カ国を意識している。例えばGMは25年までに、EVを100万台生産できる能力を北米内に確保するとしている。カナダに比べても人件費の安いメキシコ投資を検討する企業は今後も増える可能性がある。
メキシコ生産には課題もある。EVはまだ量産技術などが開発途上だ。開発中の技術を使う車を製造する場合、企業は研究開発拠点を併設する工場でつくるのが一般的だ。メキシコがEVの生産基盤を拡大するには、一定の技術開発ができる環境や人材育成なども国として整えていく必要がある。
投資環境の整備も同様だ。企業が生産拠点での温暖化ガスの排出量削減をめざすなか、メキシコは政府の保護主義的な政策で再生可能エネルギーの投資が停滞している。乾燥地帯の北部では水不足も表面化している。メキシコ自動車工業会(AMIA)のホセ・ソサヤ会長は「エネルギーと水の問題はメキシコへの投資決定の重要な要素となる」と指摘している。