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タリバン復権、テロ脅威再び〈混迷2021〉

米軍、アフガンから撤収完了 バイデン外交に不信感

2021年8月、バイデン米政権はアフガニスタンに駐留する米軍の撤収を完了した。20年間に及ぶアフガン戦争を終わらせた一方、撤収までの過程は混乱し、イスラム主義組織タリバンも復権した。「協調」を掲げ1月に発足したバイデン政権の外交に対する信頼を揺るがし、世界は再びテロ組織が復活しかねないという不安を抱えることになった。

アフガン戦争は米国にとって史上最長の戦争だ。外国テロ組織アルカイダが引き起こした01年9月の同時テロを受け、当時のブッシュ政権(第43代)はアフガンのタリバン政権にアルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン容疑者の引き渡しを要求。拒否されたため「テロとの戦い」を宣言し、戦争を始めた。

米軍は圧倒的な軍事力で01年末までにタリバン政権を崩壊させた。ところが、ブッシュ政権時代の03年にイラク戦争が始まると戦力が分散してタリバンに復活の隙を与える。アフガン戦争への対応で09年ごろにオバマ政権は数万人規模を増派した。終わりの見えないアフガン戦争に国民の不信が強まった。

21年1月に大統領に就任したバイデン氏は「米史上最長の戦争を終える時だ」と強調。アフガン駐留米軍を同時テロから20年の節目となる9月11日までに無条件で撤収させると4月に表明した。11年の米軍の急襲によるビンラディン氏の殺害で任務は完了したと主張。その後、撤収期限を8月末に前倒しした。

「テロとの戦い」に勝利したはずの撤収作業に暗雲が漂い始めたのは8月に入ってからだ。旧アフガン政府軍の士気が低く、捲土(けんど)重来を狙うタリバンと戦うことなく降伏するケースが相次いだ。8月に入るとタリバンは主要都市を次々と陥落させ、8月15日には首都カブールを制圧した。

大混乱の退避劇

駐留米軍や自国民だけではなく、タリバンによる制圧前に米国に協力してきた現地のアフガン人の退避が喫緊の課題となる。現実は未曽有の混乱で、カブールの国際空港に退避を求めるアフガン人らが押し寄せて米軍輸送機を取り囲むシーンは世界に衝撃を与えた。

米軍によると、他国分と合わせて最終的に約12万人の退避を支援したが、撤収完了時に100人を超す米国人が残されていた。全ての米国人を退避させるまで撤収しない方針を覆したとの批判が相次いだ。8月下旬にはテロ組織を狙ったはずの空爆で、一般市民を誤って殺害する悲劇も起きた。オースティン米国防長官は「恐ろしい誤りだ」として謝罪した。

バイデン氏はカブール陥落について「我々が想定していたよりも早かった」と語り、見通しの甘さを認めた。

撤収の混乱は、米国以外の国にも広がった。9月には自国民の退避などで迅速な対応ができなかったとして英国では外相だったラーブ氏が「事実上の降格」(英メディア)で副首相兼司法相に就き、オランダでも当時の外相が辞任した。

同盟国からも米国の撤収が拙速だったのではないかとの批判が巻き起こり、トランプ前大統領が後ろ向きだった「協調」を訴えてきたバイデン政権には痛手となった。

軍事力に限界

バイデン氏は「アフガン軍が自国を守ることができない、もしくは守る意志がないのであれば、米軍がさらに1年間または5年間駐留しても意味がない」と訴えた。

友好国でも、相応の防衛負担をしなければ米国は守らないと事実上断言し、冷徹さを印象づけた。「他国を造り変えるための大規模軍事作戦の時代は終わった」とも強調し、軍事力の限界も認めた。軍事介入による中東の民主化構想を掲げたブッシュ氏と一線を画した。

当のアフガニスタンは混乱の中にある。タリバン政権は国際的に承認されておらず、国内経済は疲弊。麻薬の製造・密輸が増える兆候があり、貧困が再びアフガンをテロ組織の温床にする恐れが出てきた。イスラム法に基づく恐怖政治のもとで、米国を支援したアフガン人らが迫害を受ける懸念がある。

国防総省高官は10月、テロ組織が再結集して6カ月以内に米欧を攻撃する能力を身につける可能性があると警鐘を鳴らした。過激派組織「イスラム国」(IS)系勢力はアフガンで活発に行動するようになっている。アフガンが再びテロの温床になることは、米国のみならず周辺国にとっても脅威だ。

オバマ氏が「米国は世界の警察官ではない」と宣言したのが13年。バイデン氏が批判されながらもアフガン戦争を終結させたことは、米国が軍事面のリスクを負ってまで海外の紛争に介入することはないという強い意思表明でもある。

米国の撤収による「力の空白」が顕在化すれば、中国やロシアなどが自国外で勢力を伸ばそうとする可能性がある。米国の判断が国際情勢にどう影響するのかが現れてくるのはこれからだ。(ワシントン=中村亮)

国内外を大きく揺さぶったこの1年のニュースを振り返る

<Think!>中東で米影響力低下、覇権争いで混迷も 池内恵・東京大学先端科学技術研究センター教授

米軍のアフガニスタン撤収は米国が中東や南・中央アジア地域への関与を低下させる象徴的な出来事だ。中東の混迷が深まれば、原油輸入の9割をこの地域に依存する日本のエネルギー安全保障にも悪影響が及ぶ。米軍のアフガン撤収は決して対岸の火事ではない。

2021年は中東諸国の間で関係の雪解けを演出する動きが広がった。アフガン難民や過激派の流入などを懸念する中東諸国にとって地域の安定は共通の利益だ。イスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」の支援をめぐり対立していたアラブ首長国連邦(UAE)とトルコは11月、10年ぶりに公式の首脳会談を行った。断交状態にあるサウジアラビアとイランも関係改善に向けて水面下での対話を進めている。

イランなど中東の反米国家に強硬な姿勢を貫いていたトランプ米政権とは対照的に、バイデン政権はこれらの国にも一定の歩み寄りを見せている。親米国家にとっては米国に見捨てられたという焦りがあるため、これまでの対立を棚上げして関係改善を図ろうとしている。中東諸国の歩み寄りを加速させた。

ただ、長期的にはトルコやサウジアラビア、イランといった地域大国による勢力争いは激化するだろう。米国の関与の低下で圧倒的な超大国が不在となったほか、移民問題に追われる欧州も中東の政治問題には過度に介入したくないという本音があり、中東を安定させる力が外からは働きにくい。

中東諸国に覇権を握るほどの国力はなく、1つの国が地域全体を勢力下に置くのは考えづらい。各国内に潜む反政府勢力を支援したり、小国を抱き込んだりすることで複雑な「まだら状の秩序」がこの地域を覆う。安定が望みにくい中、日本がとるべき道は、輸入先を中東以外の地域に広げるか、中東への関与を強めるかのどちらかになるだろう。

いけうち・さとし 日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年より東京大学先端科学技術研究センター准教授、18年より現職。

<キーワード>アフガニスタン戦争
米国は2001年9月11日に発生した米同時テロの首謀者のウサマ・ビンラディン容疑者らをかくまっているとして、イスラム主義組織タリバンが支配していたアフガニスタンへの攻撃を開始した。11年には隣国パキスタンに潜伏していたビンラディン容疑者を殺害。一定の成果はあげたが、20年間で約2500人の米軍関係者が死亡した。
21年8月15日にタリバンが首都カブールを含むほぼ全土を掌握し、戦争は事実上、米国の敗北となった。タリバンからは国際テロを支援しないとの合意を取り付けているものの、守られるかは不透明だ。人権侵害やテロ拡散への懸念が国際社会で高まっている。
<キーワード>タリバン
1994年に過激なイスラム原理主義を教える神学校の男子学生を中心に発足。構成員は5万~8万人強とされる。アクンザダ師を最高指導者とし、メンバーは男性に限られる。96~2001年の前回のタリバン政権時は極端なイスラム教の解釈から女性の教育や音楽などを禁止していた。
21年8月に米軍撤収に伴い再びアフガンを掌握した。政権の形を取っているが、国際社会は承認していない。産業に乏しく、国内経済は厳しい状況が続く。前政権が女性の社会進出を進めるために設けた女性問題省の名称を9月に勧善懲悪省に変更。かつては宗教警察の役割を持ち、恐怖政治に戻るのではないかとの懸念が強まっている。

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