マスク氏「炭素税導入を」 CO2回収の市場創出で

【シリコンバレー=白石武志】米Xプライズ財団は22日、大気中などから二酸化炭素(CO2)を回収する技術開発の競技会について参加者の登録を始めた。総額1億ドル(約108億円)の賞金を出す米テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は同日、同財団主催のイベントに参加し、関連ビジネスの市場創出には炭素税の導入が必要だと述べた。
Xプライズ財団は今年2月、大気中や海中から年間約100億トンのCO2を低コストで回収し長期間貯蓄できる可能性を持つ技術やアイデアを募る競技会を4年かけて実施すると発表した。マスク氏個人と同氏が設立した財団が資金を出し、1位に選ばれた参加者には5000万ドルの賞金を出す。
大気中のCO2の濃度は0.04%と低く、回収する技術が確立できたとしてもコストは1トン当たり数百ドルかかると見込まれている。22日に同財団幹部との対談に参加したマスク氏は「実用化の際の費用は誰が出すのか」という問いに対し、CO2の排出量に応じて課税する「炭素税」の導入によって、企業や消費者など幅広い排出主体に負担を求めるべきだとの考えを示した。
炭素税によって排出するCO2の1トン当たりの価格が明示されれば、企業間で排出枠を売買する排出量取引を通じてCO2を回収するビジネスに収益機会が与えられる。マスク氏は現在のCO2排出の状況について「ごみの処理に費用を払っていないようなもので、価格設定のミスがある」と指摘し、「価格が正確であれば市場システムはうまく機能する」と述べた。
炭素税はCO2などの温暖化ガスに価格をつける「カーボンプライシング」の仕組みの1つ。排出量の削減に効果的とされ、ノルウェーやフランスなどでは既に制度の運用が始まっている。マスク氏は今年2月、バイデン米政権に米国でも炭素税を導入するよう提案し、政権側から否定的な姿勢を示されたと明らかにしていた。
米アップルは4月、米金融大手のゴールドマン・サックスなどとともに大気中のCO2削減を目指す森林再生プロジェクトに投資する総額2億ドルのファンドを立ち上げたと発表している。マスク氏は植林を通じたCO2の回収について「肥料や淡水の供給にかかるコストなどを考慮しなければならない」と指摘。「単に植物を植えればいいというわけではない」と述べ、懐疑的な見方を示した。
非営利団体のXプライズ財団は特定のテーマに関して課題を設定した上で参加者を募り、優れた技術によって解決策を示した参加者に賞金を支払う競技会を主催している。人類のためのブレークスルーを生み出すとのミッションを掲げており、過去には米グーグルとともに無人機による月面探査レースを開催している。

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