米中、気候変動で同床異夢の協力 覇権争い続く

米中両首脳は22日の気候変動に関する首脳会議(サミット)で、「脱炭素」への取り組みでひとまず足並みをそろえた。米国は国際社会での指導力回復をめざし、中国は緊張緩和の足がかりにしたいとの思惑がある。両国の覇権争いが収まる兆しはなく、同床異夢の協力といえる。
「将来の産業創出に向けて大胆な行動をとる国こそが、クリーンエネルギーの経済的な恩恵を得る。雇用や技術革新を促す」。バイデン米大統領はサミットでこう訴えた。この発言は気候変動を外交だけでなく、経済再生の主軸に据えるバイデン政権の狙いを端的に映し出す。
バイデン氏は3月末、対中競争に必要な3条件として「同盟国との関係修復」、自由・人権など「価値観の重視」に並んで、「経済競争力の底上げ」の必要性をあげた。
バイデン政権が脱炭素への取り組みを加速するのは、それが中国との覇権争いを優位に運ぶことにつながるとみているからだ。
米非政府組織(NGO)の天然資源保護協議会によると、今回掲げた温暖化ガス排出量の半減目標を達成すればクリーンエネルギーなどへの投資を通じて2030年には差し引きで500億㌦(5兆4000億円)以上の投資効果を生む。化石燃料業界の失業者を差し引いても、同年までに数百万人の雇用増が見込めるとも試算する。これはバイデン氏が掲げる「中間層のための外交」に沿う。
「米国を含む国際社会とともに、地球環境の管理推進に努力したい」。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席はサミットでこう話し、米中協力に前向きな姿勢を示した。
気候変動を糸口として、「新冷戦」と称される米中対立から脱却する糸口をたぐりよせたいのが中国の本音だ。習氏がサミットに参加したのも対話の窓口を維持する狙いがある。
中国には過度に厳しい環境規制への警戒感もある。中国共産党は主要国に比べて高い経済成長の実現で国民の支持をつないできただけに、成長の足かせにもなりうる環境対策は本来、敏感な問題だ。
バイデン政権が修復を急ぐ同盟国との関係にくさびを打つのにも余念がない。今回のサミット前の1週間で、習氏はドイツ、フランス、サウジアラビアの各国首脳と電話で協議し気候変動での連携を確認した。
中国は気候変動を皮切りに、昨年相互に閉鎖した領事館の再開など関係の修復を探る。とはいえ、中国が最も警戒するのは、米国が台湾問題で日本も巻き込み「介入」することだ。米欧が指摘する新疆ウイグル自治区の人権問題でも中国は猛反発しており、根本的な関係改善にはほど遠い。
日本などにはバイデン政権が気候変動での合意を優先し、安全保障や人権などでの対中姿勢が融和的になるとの見方もあった。ただ、元米政府高官は「バイデン氏の対中観はオバマ政権時代から4年を経て一変した。気候変動を担当するケリー米大統領特使が米中合意をしたいと持ちかけても、それが他の懸案を損なわないかを慎重に吟味し、簡単には納得しないだろう」とみている。(ワシントン=永沢毅、北京=羽田野主)