米国、「生理の貧困」解消へ 税撤廃の動き広がる

高インフレ下の米国で、経済的な理由で生理用品を買えない「生理の貧困(period poverty)」の解決を目指し、消費税の撤廃に向けた動きがニューヨーク中心に広がっている。最高裁が中絶を憲法上の権利と見なす判断を覆したことで女性の怒りに火がつき、機運がより一層高まった。米薬局大手も生理用品の値下げや消費税支払いの肩代わりをする方針を示している。
米薬局大手のCVSヘルスは10月、自社ブランド生理用品の値段を25%引き下げると発表した。加えてさらなる生理の貧困解消策も示した。生理用品が「必需品」とみなされておらず、消費税や高級品として課税されるテキサスやジョージアなど12州では税金をCVSが負担する方針を明らかにした。
生理用品が課税対象となっている州は22あるが、残る10の州では税金を代わりに支払うことを禁じているため、肩代わりできないという。課税の水準は州によって異なり、4~10%だ。
法案提出の司令塔はNYの非営利団体
近年、生理用品の税金を撤廃する動きが加速している。その推進役となっているのは、わずか3人のフルタイム職員とコロンビア大学の研究者や弁護士などのボランティアが運営する非営利団体「ピリオド・ロー」だ。
同団体はニューヨークを拠点に米国全ての州での生理用品の消費税撤廃を目指す。今年中に課税撤廃の法案の提出を急いでいる。
事務局長のローラ・ストラウスフェルド氏は日本経済新聞の取材に対し「現実的には発効まで時間が必要だとは思うが、2023年末までに米国全土で実現に向かう可能性は十分にある」と話す。
消費税撤廃の動きはいまに始まったものではない。転機となったのは16年だ。ストラウスフェルド氏はニューヨーク州に対し「憲法に違反して生理用品に課税している」と批判して集団訴訟を起こし、勝利した。
この結果、ニューヨークで生理用品の消費税が撤廃され、学校や刑務所などの公共施設で無償提供が義務付けられるようになった。当時は40州が税を課していたが、いまでは22州に半減した。
「生理用品なくて学校休んだ」
学校に通う子供にとっての影響は特に大きい。生理用の吸水ショーツを販売するシンクスなどが13~19歳の1000人を対象に実施した調査によると、「生理用品をもっておらず、学校をやむを得なく休んだ、もしくは休んだ人を知っている」との回答が84%に達した。
実際、課税を撤廃する法律が発効する前に、無償で生理用品を提供したニューヨーク市のクイーンズ区の学校では女の子の登校率は2.4%上がったという。
直近ではコロラドやネブラスカなど4州で生理用品に対する課税を撤廃する法がすでに発効しており、アイオワやバージニアでも23年1月付で発効する。
21年にはニューヨーク選出のグレース・メング下院議員が、全ての連邦政府の建物で生理用品の無償提供や、低所得者向けの公的医療保険「メディケイド」で生理用品の費用をカバーする法案も提案している。
コロナ禍や物価高も一因
米ジョンズ・ホプキンス大学が20年に調査したところ、生理の貧困に陥っている人は1690万人に上った。多くは日々の食費を削るか、生理用品を削るかの選択を迫られている人々だ。
一方、米日用品メーカー、キンバリー・クラーク傘下の生理用品ブランドが実施した別の調査では、18年から21年の間に生理の貧困に陥った人は35%増加したとのデータもある。
回答者は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に伴う離職や収入減といった経済的な困難に陥ったのが理由で、商品が買えなくなったと答えた。
インフレやサプライチェーン(供給網)の混乱もさらに状況を悪化させた。米調査会社ニールセンIQの調査によると、タンポンや生理用ナプキンは22年4月以降、前年に比べて10%高い価格で推移している。今年7月にはSNS(交流サイト)に店頭から生理用品が消えた様子が投稿された。原材料の供給網が混乱し、供給不足に陥ったためだ。
供給問題が解決しても課題は残る。ストラウスフェルド氏は、公共施設での無償提供が義務化されたとしても、安全性の確保が重要になると警鐘を鳴らす。仮に粗悪品が無償で提供されるようなことがあれば、利用する人の健康を害してしまうおそれがあるからだ。
生理の貧困を解消しようという社会全体の問題意識は、かつてなく共感を呼んでいる。この機を生かせるか、米国社会の結束と知恵も問われているといえそうだ。
(ニューヨーク=吉田圭織)
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