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FRB議長「銀行システム安定へあらゆる手段」 会見要旨

(更新)

米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は22日、米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で「インフレ率は依然として高い水準にある」と述べ、引き続き政策金利の引き上げ方針を示した。主な発言と質疑応答は以下の通り。

本日、FOMCは政策金利を0.25%引き上げることを決めた。直近の経済指標は予想以上に強かった。これらは経済活動とインフレの勢いを映す。一方、我々はここ2週間の銀行システム不安により企業や家計の与信条件が逼迫するとみており、経済にも波及する可能性がある。

経済全体への具体的な影響に関する予測や金融政策による対応をするのはまだ早いが、我々はインフレ抑制のために継続的な利上げが適切だという立場を変える。今後は経済指標を注視し、適切であれば追加の金融引き締めをする。

銀行システムは健全

ここ2週間、いくつかの銀行で深刻な問題が発生した。問題を放置すればいずれ健全な銀行にも信用不安が波及し、金融システム全体が家計や企業の預金管理や貸し出しなどといった重要な役割を果たせなくなることは歴史を見ればわかる。

そこで、FRBは米財務省と連邦預金保険公社(FDIC)と協力し、米経済と銀行システムの信用を守るため確固たる行動をした。こうした行動は銀行システムの預金が保護されていることを証明する。FRBは財務省のサポートを受け、流動性と安全性を持つ銀行に限り必要に応じて資金の借り入れを可能とする緊急融資枠を設立した。

このプログラムは連銀貸出制度(ディスカウント・ウインドー)とともに、銀行による非常時の資金調達ニーズに応え、システムの流動性を保証する。銀行システムは高い流動性と資本を有しており、健全で強靱(きょうじん)だ。引き続き銀行システムを注視し、安定性を保つためあらゆる手段を行使する用意ができている。我々は今回の事態から学び、この先同じような事態が発生しないよう尽力する。

物価の安定が最優先

インフレは依然として高水準で推移しており、労働市場もなお逼迫している。我々は高インフレが引きおこす苦難を理解している。インフレ率を目標の2%まで抑え込むという我々の約束を果たすつもりだ。

物価の安定はFRBの責任だ。物価が安定しない経済は誰の利益にもならない。物価が安定しなければ、すべての人に恩恵をもたらす強い労働市場の環境を継続的に維持できない。

2022年の米経済は著しく鈍化した。23年1〜3月期の個人消費は伸びたものの、年末年始の不安定な気象が要因となった可能性がある。

対照的に住宅市場はなお弱い。住宅ローン金利が高止まりしたことが大きい。高金利と生産の成長鈍化が企業による設備投資に重くのしかかっている。

(FOMCの)参加者はおおかた控えめな経済成長が続くと予想した。経済・政策見通し(SEP)の概要にも記載されているように、23年の実質国内総生産(GDP)成長率の予想の中央値は0.4%、24年は1.2%だ。いずれも長期的な成長率の中央値を下回る。ほとんどの参加者がGDP成長率が下振れするリスクがあると予想した。

労働市場は依然として非常に逼迫している。雇用者数は過去3カ月で月平均35万1000人増加した。失業率はなお低く、2月は3.6%だった。労働参加率はここ数カ月でじわり上昇した。賃上げ圧力は解消する兆候が見られる。半面、求人はいまだ高水準だ。労働需要が供給を大きく上回る状況が続いている。

参加者は労働需給がいずれ均衡を取り戻すと予想している。賃金成長率の中央値は23年末は4.5%、24年末には4.6%となると予想した。

インフレは我々の長期的な物価目標の2%を大きく上回る。1月の個人消費支出(PCE)価格指数は前年同月比5.4%上昇した。変動の激しい食品とエネルギーを除いたコアPCEは4.7%上昇した。2月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比6%上昇、コア指数は5.5%上昇した。直近の指標はインフレ圧力がなお強いことを示す。

――今日の利上げが銀行システムにさらにストレスを与える懸念は。

「そうは思わない。我々はマクロ経済に焦点をあてて利上げを実施している。銀行の信用状況に対しては連銀貸出制度や新規に設立した融資ファシリティーなどの金融システムを安定させるツールで対応する」

――米経済がソフトランディング(軟着陸)する可能性はあるか。

「足元で起きている出来事が経済にどれだけの影響を与えたかを語るのはまだ早い。問題は、今のような状況がどれだけ長く続くかということだ。長引けば長引くほど、与信環境の引き締まりなどが進む可能性がある」

――地銀からの預金流出を止めるなど現在の金融市場のストレスを止める上でFRBはどれだけ自信があるのか。

「銀行システムは健全で強靱だ。資本も流動性も強力だ。財務省とFDICによる強固な対応は預金者のお金が守られ、銀行システムも安全であることを示したものだ。銀行預金の流出入は1週間ほどで安定した。我々は徹底的な内部調査を実行中で、それによってどこで銀行の監督と規制を強化すべきか把握する」

利上げ停止の可能性も議論

――商業用不動産融資が金融市場に与える懸念が深まっている。中小銀で大きくローンを抱えている銀行もある。シリコンバレーバンク(SVB)のように銀行破綻につながるリスクとなるだろうか。

「(一部の銀行の融資が)商業用不動産に集中していることは認識している。ただ、SVBとは比較できないと思う。銀行システムは健全で力強く、強靱だ。資本も充実している」

――銀行システムのストレスを踏まえて利上げの停止を議論したか。

「会合前の数日間に利上げ停止の可能性も議論した上で、今回の決定に至った。これは極めて強いコンセンサスに基づく決定だ。これは労働市場とインフレが予想以上に強い状況だからだ。実際のところ今回の(銀行危機という)出来事以前は、昨年12月のSEP時に予想した以上に大きな利上げを継続していく必要があるようにみえた」

「2%のインフレ率まで物価の安定を達成するために我々が利上げをしていることに一般の人々も自信を示していた。この自信を維持し、言葉通りに我々がそれを実行することが重要だと考える」

与信環境の引き締まり、利上げと同等以上の効果も

「過去2週間の出来事は家計や企業の与信環境に圧力を与えるものであり、それが労働市場の情勢やインフレを抑制する効果があり、この金融市場の逼迫は利上げと同じ効果、あるいはそれ以上の効果があることは確かだ。もちろんそれを現時点で正確に分析することはできないので、我々は0.25%の利上げと声明文を『利上げの継続』から『追加利上げもありうる』という文言に変えた」

「今後はデータ次第だが、とくに与信環境の引き締まりによる影響を精査することが重要だ」

UBSのクレディ・スイス買収、「現時点ではうまくいっている」

――スイスの金融大手UBSによるクレディ・スイス・グループの買収が決まったとき、安堵したのではないか。

「我々は皆さんの期待通りにスイス当局と関わってきた。うまくいかないかもしれないという懸念はあったが、結果として前向きなものになった。市場も受け入れており、現時点ではうまくいったと言える」

銀行監督・規制強化の必要性は明らか

――SVBの破綻を受けて、銀行監督や規制の改正を通じて米国民の銀行システムに対する自信を回復する必要があるか。

「SVBの資産管理は失敗した。ものすごいスピードで拡大し、銀行顧客は一定のグループに集中しすぎ、銀行の流動性と金利変動に大きなリスクを抱えていた。その結果、前例のないスピードで預金取り付けが起きた。我々監督当局がやることは、何がどう起きたかを調査し、その上で同じことが二度と起こらないようにすることだ。現時点で、その対策を私が示すのは適切ではない。バー副議長が議会証言し、調査の中身について情報公開していく。銀行監督と規制を強化する必要があるのは間違いない」

――ほかの銀行に同じような問題がないか自信を持っていえるか。

「問題は預金保険の対象でなかった預金の比率が大きく、資産のデュレーション(平均残存年数)リスクが大きかったというSVBの固有の問題で、銀行システムの弱さから来るものではない。銀行監督当局はSVBの問題を認識していた。それでも問題が起きた。これについて調査をする必要がある」

――パウエル議長はすべての預金者の預金が安全だと言及したが、預金保険が全預金を保護するということを意味するのか。

「私が言いたいのは、経済や金融システムに深刻な害を及ぼす恐れがある場合、預金者を保護する手段があるということだ。我々はその手段を使う用意があり、預金者は自分の預金が安全だと考えるべきだ」

FRBのバランスシート拡大は一時的

――FRBによる金融機関への支援は、バランスシートを縮小させていることと矛盾しないか。

「人々はそれぞれの方法で量的緩和(QE)や量的引き締め(QT)を考えるので、私の考えを明確にしたい。最近の世界的な(中央銀行による)流動性の供給は我々のバランスシートを拡大させることになったが、その意図や効果は長期債の購入でバランスシートを拡大させる場合とは全く異なる。長期債の大規模購入は、国債価格を上げ、長期金利を押し下げる、政策スタンスの変更を意味する」

「(直近の)バランスシートの拡大は、最近の緊張によって生じた特別な流動性需要に対応するための、銀行への一時的な融資によるものだ。金融政策のスタンスを変えることを意図していない。銀行システムに対する信頼を強化し、金融情勢の急激な収縮を食い止めるという意図した効果を発揮していると思う」

――銀行危機対策について。ディスカウント・ウインドーなど既にある枠組みではなくなぜ新たな融資枠を設けたのか。破綻したSVBとシグネチャー・バンクに1430億ドルがわたったようだが、預金保護におけるFRBの役割は。

「ディスカウント・ウインドーの枠組みでもかなり多くのことを実施している。緊急融資枠は特別な事情がある場合のみ利用できるもので、一定の要件を満たす必要があるが、適切な枠組みだったと思う。我々はFDICと協力してブリッジバンク(承継銀行)に融資することにした。FDICが100%保証するローンなので、FRBには何のリスクもない」

独立した外部調査を歓迎

――FRBの内部調査において、あなたの役割は。

「銀行監督を担当するバーFRB副議長がこの調査を先導する。中身の報告を受けるだけで、調査に関わるわけではない。今回の銀行破綻がなぜ、どうやって起こったのかを明らかにする必要があると最初の週末にすぐに調査することで合意した」

――SVBの破綻を巡り、(議会が提案するような)FRBとは別の外部の調査が入ることに抵抗はないか。

「独立した外部の調査を100%歓迎する。銀行破綻に関する調査はもちろん歓迎だ」

銀行システムへのストレス、見極め必要

――「利上げの継続」と「追加の引き締め」の違いは何か。追加の引き締めとは利上げを意味するのか。

「追加の引き締めとは政策金利の引き上げを意味するものだ。ここで着目してほしいのは、『継続』から『引き締めもありうる』と変えた点だ。先行きが見通せない中で現在の銀行システムのストレスが経済にどれだけの影響を与えるかを見極める必要があるからだ。経済にあまり大きな影響を与えない可能性もある。一方でインフレ圧力が引き続き大きい場合、我々の対応は変わってくる。あるいは利上げが与信環境を大きく逼迫させる可能性もある。その場合は金融政策での対応は小さくて済むことになる。現時点で先行きはわからない」

――どのような状況になれば利下げは正当化されるか。

「金融情勢は従来の指標で見るよりも、より引き締まった状態にある。従来の指標は金利と株式に重点を置いており、必ずしも貸出金利を捉えているわけではないからだ。銀行の貸出状況などに焦点を当てれば、より引き締まっていることを示す指標がある。しかしどの程度深刻なものなのかが疑問だ。長引けばマクロ経済環境にも大きな影響を与える可能性がある。しっかり見極めて、政策決定に反映していく」

――今回の銀行危機を踏まえた上でのターミナル金利(政策金利のピーク)をどう予想するか。

「現在の銀行の状況が利上げと同等の効果を発揮する場合とそうではない場合で、対応が変わってくる。インフレ拡大と労働市場の逼迫が明らかな一方で、過去12日間に起こったことの信用市場への影響を分析するのは非常に難しい」

23年内の利下げ、考えていない

――市場は5月にもう一度利上げし、その後2023年中に利下げに転じていく見通しを織り込み済みだ。FOMCの参加者の見方との乖離(かいり)をどう考えるか。

「本日発表のSEPを見ての通り、参加者は比較的ゆるやかな経済成長や、労働市場の需給バランスの緩和を見込んでいる。インフレも徐々に鈍化すると考えられる。最も可能性の高いケースとして、そうなった場合、参加者は23年の利下げを考えていない。経済の軌道は不確実であり、実際に起こった事柄を政策に反映していく」

――インフレが高止まりすれば、必要に応じて利上げ再開を検討するのか。利上げが終わりに近づいていることで、手足を縛られているのだろうか。

「そんなことはない。現時点では、我々は与信環境の引き締まりが起こる可能性があると考えている。経済や需要、労働市場、インフレに影響を及ぼす。我々はこうしたすべての状況を注視している。我々は最終的にインフレ率を下げ2%に戻すために十分な引き締め政策をとるつもりだし、インフレは下がっていくだろう」

インフレ率2%の目標は据え置き

――インフレがしつこいが、より早く沈静化させるために財政面での支援は必要か。

「想定していない。FRBは物価安定に責任があるし、それを変えることはできない」

――FRBは正しいことをしていても、新型コロナウイルス下での財政支出によってインフレが長引いているのではないか。

「パンデミック(世界的大流行)対策が一段落するにつれ、支出は減少していった。当初はインフレの理由の1つだったかもしれないが、今はそうではない」

――2月の会合ではディスインフレーションという言葉を度々使ったが、現在もディスインフレーションは起こっているのか。

「モノのインフレは過去6カ月間に低下傾向になっているが、そのペースは望ましいほどではない。コアPCE指数の44%を占める住宅賃貸の価格は2月時点ではみられなかった低下傾向が出ている。一方で住宅以外の価格や労働市場はまだ軟化がみられない。与信環境の引き締まりと景気鈍化の関係についてはいろいろな議論があるが、問題は現在の与信逼迫がどれほど続くのかわからないことだ」

――23年末の政策金利が中央値で5.1%となったことは、23年の残りの期間を見通した際に、参加者は十分に金融引き締め環境にあるという認識で一致しているということか。引き締め終了の到達点からいまはどの程度離れているのか。

「我々は金融政策の効果をみている。銀行で起きている事象から与信環境の引き締めを目にしている。利上げと同じことを、利上げの代替方法で実施することも考えている。重要なのはインフレ率を2%まで低下させるのに十分な引き締め政策が必要ということだ。そのすべてが利上げである必要はなく、与信環境の引き締まりからくることもある。このような状況がどの程度続くかは非常に不透明で、当面は見守るしかない。我々は2%目標に向け十分努力をするし、誰もそれを疑うべきでない」

――経済見通しでは23年に失業率が4.5%に上昇するとのことだが、雪だるま式に高まる失業率をどう防ぐのか。

「(SEPは)労働市場が軟化し、需要が鈍化することで起きうるかもしれないという非常に不確実な見積もりだ。我々はインフレ率を2%まで下げなければならない。そのためにはコストがかかるが、インフレ抑制に失敗したときにかかるコストの方が大きい」

「歴史を振り返ると、中央銀行がインフレ率を元の水準まで戻し、インフレ期待が安定していることを確認しない限り、不安定な年が続くということが分かるだろう。そうすると資本を投じることも難しくなり、経済がうまく機能しなくなる。我々はそのような事態を避けるために、インフレ率を下げることに重点を置いている。長い目で見れば、それがサービスを提供する人々に最も利益をもたらすことだとわかっているからだ」

(米州総局=赤木俊介、大島有美子、伴百江、佐藤璃子)

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